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コラム

海潮音

9月2日

 文部科学省が「スポーツ立国戦略」を発表した。スポーツ庁創設も視野に代表選手・チームの強化や生涯スポーツ振興へてこ入れする。国の旗印「科学技術立国」ほどの浸透は疑問ながら、期待を込めて動きを見ている◆地元の競技関係者も「スポーツ文化発展の契機に」と期待するが、同じ文科省で文化芸術関連予算が1千億円なのに対してスポーツ関連は227億円。“立国”と聞こえはよくても、本腰と呼べる予算配分はできるだろうか◆費用対効果が測りにくいのがネックだ。戦略実行で医療費が年間2兆5千億円抑制される予測もある一方、漠然とした理念が先行した投資が歓迎される環境にはなく、「仕分け」の標的にもなりかねない◆戦略の目玉は、第二の人生を迎えたトップ選手が地域の総合型クラブに配置され、力が還元される枠組みづくり。新たな“一流”の発掘やスポーツ実施率の向上への貢献もあるだろう。活気に満ちた光景が想像できる◆スポーツでは夢は食えてもメシは食えない−が大方の現実。だが、かじった者なら一度はトップを夢見たはず。頂点を極めた者、これから目指す者、断念してマイペースで取り組む者。それぞれが支え合って築くスポーツ立国。実現した姿を見てみたい。


9月1日

 「妹(いも)が口 海酸漿(うみほおずき)の 赤きかな」と高浜虚子が夏の季語に用いた海酸漿は、貝の卵のうを指す。赤く染めた海酸漿は縁日で売られていた。口にくわえて鳴らす女の子。吹けば吹くほど唇(くちびる)の周りに赤い色が着く情景を、虚子は詠んだのだろうか◆「口に入れるとほんのり磯の香りがした」と声楽家の塩谷靖子(しおのやのぶこ)さん(66)=東京都。疎開先の境港市外江町で幼少期を過ごし、海酸漿を鳴らして遊んだ。「故郷の音」として今も記憶に残る。先天性緑内障だった塩谷さんは上京して間もなく、8歳のころに視力を失った◆全盲の声楽家。音声による画面読み上げソフトを頼りにパソコンのキーボードを打ちながらエッセイもつづる。「苦労なさいましたね」と言われるが、歌うこと、書くことは自身の内面を表現する本能。「苦労ではなく、楽しんできた」のだ◆健常者と比べて感性が劣るようなことはない…私は身をもって示していきたい、とは著書『寄り道人生で拾ったもの』の一文。4日、境港市文化ホールのステージに立つ◆かつて遊んだ海酸漿は、漁師町にあって子どもたちの格好な遊び道具だった。手繰る記憶は懐かしい浜弁も思い出す。4年ぶりの里帰り公演。磯の香りに包まれ、塩谷さんの歌声が響く。


8月31日

 暑いこの夏でも最高の37・7度を記録した29日の境港市。にもかかわらずこの日水木しげるロードで行われた年間入り込み客200万人達成を祝うセレモニーには千人もの観光客が詰め掛け、関係者も「こんなに暑いのに」とびっくり◆水木ロードの勢いが止まらない。おととしより1カ月も早く入り込み客100万人を達成し、4カ月以上を残して史上最多記録を更新。250万人はおろか300万人さえうかがう◆セレモニーでは境港市の安倍和海副市長が「ブロンズ像80体でスタートした1996年に、200万人を誰が想像したでしょう」と興奮気味にあいさつしたが、まさにその通り。妖怪ブロンズ像設置に「お化けが出そうな通りに妖怪なんて」と反対も出た“シャッター通り”は今や全国区の観光地だ◆観光客が大幅に増えたのはドラマ「ゲゲゲの女房」のヒットによるところが大きい。だが、それも関係者の不断の努力があったからこそ。境港市観光協会の桝田知身会長は「努力なしでは一時的なブームで終わっていた」と振り返る。◆桝田会長は「まだまだこれから。この先も手を緩めない」と気を引き締める。連日の猛暑にも負けなかった水木ロードだが、関係者の思いはますます熱い。


8月30日

 「死ぬ? おれは死なんよ」。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』で、坂本竜馬がおりょうに語る場面がある。役の小角がともした「不滅の燈明(とうみょう)」を例に引き「たれかが灯を消さずに点(とも)しつづけてゆく、そういう仕事をするのが、不滅の人間ということになる」◆人は二度死ぬという。一回は肉体の死。もう一度は思い出してくれる人がいなくなった時だ。この時、人は本当の意味で死ぬという。その人の記憶が受け継がれている間は、現実の死よりも長く生きる◆先祖の霊を供養する「お盆」という行事は、故人を語り継ぐことで人々の心の中に「生き続けさせる」のが最大の目的ではないか−という識者がいる。墓参りもそうだろう。法要も同様だ。記憶という不滅の寿命を故人に贈るのだ◆それに比べ、続々と判明する「所在不明の高齢者」たちの記憶は何と軽んじられていることか。詐欺で逮捕された東京・足立区の男性と同居していた子や孫は、数十年間にわたって男性の記憶を無視してきたことになる。その間、どんなお盆を過ごしてきたのか◆山陰でも幕末生まれの「高齢者」が見つかった。記録が残っているのに、存在そのものは忘れ去られていた寂しさ。仕事でも人間でも語り継がれることで「永遠」になる。


8月29日

 大型肉食恐竜「アロサウルス」の実物骨格標本を公開中の米子水鳥公園を訪ねると、正門からネイチャーセンターまでの散策路に、地球誕生から46億年の歴史を1日24時間にたとえ、さまざまな生物の出現を表示したパネルが展示してあった◆地球の長い年月から見ると、アロサウルスのような恐竜が出現するのも時計の針がぐるぐる回って23時15分と45分前。人類が登場するのはわずか2秒前で、道具を使えるようになったのは1秒前でしかない◆「25分も生きた恐竜の足元にも及ばない。その人間が恐竜のことを語っているんですよ」と同園の山根一朗館長。今では地球の支配者として君臨する人間も恐竜から見ればまだはな垂れ小僧。人間中心主義を戒められる◆例年ならシーズンオフでエアコンのない水鳥公園はこの夏、盛況だったらしい。1億5千万年前の恐竜の化石標本から窓の外に視線を移し、恐竜から進化したとされる鳥類のカワウがのどを鳴らしている様を眺めると、太古から現代へ一瞬まばたきするようだ◆猛暑だったこの夏だが、恐竜が繁栄していた中生代は現在よりはるかに暖かかったという。地球温暖化CO2犯人説の雲行きも怪しくなり、単純ではない地球環境。視野を広げれば見方が変わる。


8月28日

 人が多く出入りする駅などに誰もが自由に使える傘を備え付け、借り主は別の公共施設などに返却する循環の仕組みをつくれないか−。作家大崎善生さんの小説の中で、主人公は知り合い夫婦に「傘の自由化」を説く◆「家にため込む人が出てくるぞ」と夫はちゃかすのだが、使える傘が必ずあるという感覚を共有できれば、ため込む発想自体がなくなると主人公は反論する◆鳥取、島根両県の若手職員が先日、両県知事に「ご縁傘プロジェクト」を提案した。駅、バスやタクシーの車中、公共施設や店舗に観光客、地元民問わず自由に使えるビニール傘を置くというもの。借りた傘は趣旨に賛同するところのどこに返してもいい◆「山陰は雨の日が多い。訪れる人にこの地の温かさを感じていただければ」と発案した女性職員。傘はリサイクル品も活用し、縁結びをイメージした共通のマークを付けるという◆くだんの小説の中で、妻は主人公に味方する。「すてきなことだと思う。まずは1本でもいいから自由化してみることよ。きっと、そういう具体的なことが大切なのよ」。猛暑が途切れぬこのごろ、雨を恋しく感じながら、このプロジェクトを具体化してみてはどうかと思う。平井知事、溝口知事、いかがですか。


8月27日

 16年前、鳥取と関西を結ぶ智頭急行が開業して以来、気になっている駅がある。智頭町大内の「恋山形駅」である。当初は「因幡山形駅」の予定だったが、人を呼ぶ「来い」と掛けて、地元住民の強い要望で粋な命名となった◆ホームだけの駅舎のない無人駅。開業当初の注目度の高さとは裏腹に、その後話題に上ることはほとんどなかった。しかし昨年、地元住民が駅周辺に植えたタマノカンザシが開花し、山形第一地区公民館が恋の花にちなんだ恋文(短歌と俳句)を募集した◆「嫁ぐ娘の姿夢見る凛(りん)とせし白無垢(むく)に似てたまのかんざし」。昨年の最優秀賞である。鳥取県内から短歌38首、俳句28句の応募があり、今年も恋文を募集している。タマノカンザシは智頭町名産で、恋山形駅のシンボルとなりそうだ◆タマノカンザシは純白で一重と八重咲きがあり、甘い香りを漂わせる。日没から夜にかけて花開き、秋の到来を感じさせる。今月28、29日には湯梨浜町のあやめ池公園で観賞会、来月4、5日には鳥取市の鳥取産業体育館で展示会が予定されている◆「恋」をテーマに情報発信を始めた恋山形駅。恋人の聖地として知名度を上げ、死語になった「恋文」をよみがえらせ、夫婦、家族、地域社会の接着剤にしたい。


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