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コラム

社 説  鳥取県の人権条例 

「両刃の剣」を握った県民
2005/10/13の紙面より
「県人権条例」案への反対声明を発表する鳥取県弁護士会の松本光寿会長(右)=8日
 どうにも解せない。なぜ急ぐ必要があるのか。鳥取県民は、使えば自分たちも傷つく恐れのある「両刃の剣」を握らされた。

 鳥取県議会は十二日、県の人権条例の六会派による修正案を賛成多数で採択した。差別や虐待など人権侵害に苦しむ人を素早く救済する、その目的自体を否定する人は誰もいないだろう。しかし、「個人の内面」に踏み込む内容を持ち、慎重さと厳密性を要する条例にもかかわらず、まるでたばこのポイ捨て禁止条例のごとく、数の勢いであっさり採択してしまった。「全国初」は誇るに値することなのだろうか。

どこが変わったのか

 不思議なのは、提出議員ら自身が以前「問題あり」としていた点が、どう変わったのか、改善されたのかが分からないことだ。

 三月議会の総務警察常任委員会では、十二月に県が提案した案と一部会派の修正案について、(1)県は、人権救済推進委員会を行政から独立した機関にするため国に特区申請したが認められず、同委員会の独立性、公平性の確保の問題は解消されていない(2)人権擁護法案の国会提出が予想され、同法案が成立した場合は条例案をさらに見直す必要が出てくる(3)二月の自民党と県弁護士会の意見交換で、裁判所の令状なしで職権により関係者等に差別や虐待を調査し、調査への協力を拒めば五万円以下の過料(罰金)を科すことができる同条例は、公権力が県民生活に過度に干渉するなどの新たな人権侵害につながる可能性があると強く認識した−と説明があり、異論もなく継続審査が決まった。

 ところが、今回提出された条例案の修正部分は、▽委員会は男女とも二人以上とし、弁護士を含めるよう努める▽調査協力の義務付けは人権侵害当事者に限定▽勧告前に弁明の機会を与える−といった程度で、自らが発した疑問点に答えるものにさえなっていない。県弁護士会が反対を唱えているからと言って、弁護士を委員に入れてよしとするのも安易ではないか。

県民の理解は不十分

 もともと同委員会の行政からの独立性は、県の特区申請が認められなかった時点で成り立ちようがなくなった。地方自治法では教育委員会などを除いて独立行政委員会の設置を認めていない。「知事の付属機関」では、加害者が県や県関係者だった場合、行政権力の委員会への影響力について県民に深刻な疑念や誤解を招く。ましてや行政機関の長の判断次第では協力拒否ができる項目まである。

 県弁護士会の反対声明に、片山知事は「提案者である議会が説明責任を果たされるべき」とまるで他人事のようで、「問題があれば修正していけばいい」と議員ともども楽観的だが、一般市民が人権問題で係争に巻き込まれた場合、どれだけ本人や家族に深刻な事態を引き起こすか、想像力は働かないのだろうか。「高みの見物」のような発言は慎むべきだ。

 人権侵害の定義もよく分からない。虐待やセクハラ条項はこれでは用をなさないのではと思うほど簡素で、人種等(人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病または性的指向)を理由とした差別的取り扱いや言動への「調査」「救済」が主になる予感がある。

 人権は憲法で保障され、救済する法律も機関もある。それとは別に、啓発ならともかく罰則や公表による制裁を伴う「もう一つの法律」のような条例を、地方で急いで設ける必要があるのか。営々と「対話と理解」で取り組んできた人権施策にはそぐわない気がする。何より、被害者にも加害者にもなりうる県民が、同条例について何も知らされていないのが最大の問題、と言っておこう。


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