金井啓子の現代進行形

維持できるか米国社会の多様性

2016年11月17日

トランプ次期大統領を迎えて

 今から約30年前に生まれて初めて飛行機に乗って最初に訪れた外国が、私にとって2年間にわたる米国の女子大での生活の始まりだった。キャンパスに着くとそこにいる人たちの多様性に驚いた。もちろん米国籍の人が一番多かったが、彼らにしても肌や髪の色はさまざま。外国人も日本からの留学生が私の他に数人いたほか、ジャマイカ、ハイチ、インド、韓国、カンボジア、ベトナム、イタリアなどから来た学生がいた。カンボジア人の学生は、戦火の中で母国を命からがら抜け出したが、彼女は米国、母親はフランスと、別々にならざるを得なかったそうだ。

 米国人の中にもさまざまな背景を持っている人たちがいた。寮で隣の部屋に住んでいたポルトガル系の学生の母親は、米国に住んで長いのにポルトガル語しか話せないという話を聞いたことがあった。また、学生仲間ではないが、大学の近所に住んでいて私をコンサートや食事に連れ出したり家に泊めたりしてくれた女性は、両親がアルメニアから米国に渡ってきたと言っていた。

 つい数日前に母校の学長が来日し、大阪で夕食を共にした。9年前に共学になったこの大学には今では男子生徒が3割もいるのだという。性別だけでなく、人種も国籍も以前よりさらに多種多様になったが、カトリック系の学校であることは変わっていない。それでも、イスラム教徒の学生も一緒に学んでいるのだという。

 多様性の実態とありがたみを私に身をもって体験させてくれた母校は、ドナルド・トランプ氏が次期大統領となることによって、何か影響を受けることになるのだろうか。トランプ氏と言えば、当選後に従来の激しい発言をやや軌道修正したりもしているが、排外主義的な人々から大きな支持を集めていることはご存じの通りだ。

 ちなみに、自分たちの国を守るために「異物」を入れず取り除くという考えが広がっているのは、米国に限ったことではない。私が20年前に住んでいた英国を5年前に久しぶりに訪れると、レストランや高級ホテル、観光バスのチケット売り場といったところでポーランドやポルトガルなど英国人以外の人たちが働いているのが目についた。以前ならば英国人が独占していたような職場に外国人が進出していたのだ。そんな英国で行われた国民投票でEU離脱が賛成多数となったのは記憶に新しい。

 他国との関わりをできるだけ避けて自国に引きこもりたいと願うような動きが、世界のいろいろなところで起きている。日本だって人ごととして傍観してばかりもいられない。引きこもれる母国がある人たちはいいだろうが、そうではない人たちはただはじき飛ばされるしかないのか。でも、外へ追いやられる立場に、自分もいつ立つかわからないのだ。そういう想像力を働かせ、多様性を受け入れることが今こそ求められている。

 (近畿大学総合社会学部准教授)