金井啓子の現代進行形

あの歌声はまた聞けるのか

2016年12月1日

初犯の執行猶予に一考を 

 『はじまりはいつも雨』を初めて聴いたのは、約25年前にカラオケボックスで友人が歌った時だった。美しいメロディーにひかれて誰の歌なのだろうと調べてみると、時折耳にしていたCHAGE&ASKAのASKAが作詞作曲をして自分で歌っているのだと知った。甘めの歌詞は友人が歌った時から魅力的だと思っていたが、ASKA本人が伸びやかな高音で歌うこの歌は格別だった。それに、こんなことをここで書くのはかなり恥ずかしいのだが、彼の容姿にもまさに一目ぼれだった。

 2年前に彼が覚醒剤を隠し持っていたとして警視庁に逮捕された時の衝撃は忘れがたい。これであの美しい歌声が聴けなくなるのか…と暗たんたる気持ちになったのだった。そして、美しい詩とメロディーを作り出す彼の力が表舞台に出る時ももうなくなるのかと、惜しくてならなかった。

 その後、覚醒剤や合成麻薬のMDMAを使った罪などで懲役3年、執行猶予4年の有罪判決を受け、執行猶予中で現在を迎えていた。

 そこに飛び込んできたのが今般の再逮捕のニュースだ。CHAGE&ASKAの熱狂的なファンは私の知人をはじめとして非常に多い。私などよりよほど強い思いで復帰を待ちわびていた人たちの落胆と怒りはいかばかりだろうか。

 再逮捕を耳にした瞬間に私の心によぎったのは「まさか」と「やはり」という二つの言葉だった。まだ現時点では事実関係は全て明らかになっていない。それでも、薬物関連の罪を犯した人の再犯率が高いことはよく知られている。

 そもそも薬物に手を出したのは彼本人の責任である。だが、その後に繰り返し薬物に手を出すのは、もはや彼自身の“責任”を問えない状況に陥っているのかもしれない。なぜなら、彼の“やる気”や道徳心などではもうどうにもならない状態なのだろうと思うからだ。ならば、“病人”となってしまった彼をただ責めても仕方ない。前回の逮捕では初犯の“相場”として執行猶予がついたようだが、薬物中毒となってしまった人間に対して適切とは思えない。

 多様な薬物の入手が容易となっているこの社会で、いったん中毒になった人間には自ら民間施設に頼るしか手がないというのは、あまりに心もとない。単に逮捕して判決を下すだけで済ませず、治療にも国家が積極的に関わることが、薬物犯罪を根本から断つことにもつながるのではないだろうか。

 「僕は上手に君を愛してるかい 愛せてるかい 誰よりも誰よりも」という箇所が、あの歌の中では最も好きな部分だ。甘やかな気持ちでこれを聴いていた四半世紀前、こんなやるせなく悲しい気持ちになろうとは想像もしていなかった。今回は実刑判決が下ることはほぼ間違いないだろう。数年間は彼の歌声を聴けない覚悟はもう決めた。でも、諦められないファンのひとりとしてあの歌声を聴く日を待ちたい。

 (近畿大学総合社会学部准教授)