金井啓子の現代進行形

ドラマで時代の空気切り取る

2016年12月22日

テレビ復権につながるのか  

 ドラマが不調と言われる中、TBS『逃げるは恥だが役に立つ』は異例の高視聴率を取った。エンディングの「恋ダンス」も流行し、ついにはケネディ米国駐日大使まで踊る様子を動画サイトに投稿している。

 高視聴率の理由はなにか。1年前のNHK紅白歌合戦で歌って踊る姿の躍動感に一瞬でとりこになった私としては、NHK大河ドラマ『真田丸』の徳川秀忠とは全く違った演技を見せた星野源が一番の要因だと思いたい。だが、やはり新垣結衣の魅力や初々しさは何より大きい。そしてもうひとつ、ドラマ全般にわたり視聴者に強く訴えかけ共感させる要素が随所に盛り込まれていたことも成功の秘訣(ひけつ)だったのではないだろうか。

 35歳まで恋を知らない男性が主人公だが、今の若い男性は「草食系」と呼ばれるように恋に奥手な人が多いとされている。一方、最近はさまざまなことに女性の方が積極的で、恋愛に関しても一昔前のように男性からのアプローチを待たず女性側が自分の気持ちを率直に伝えるようなところが、ドラマと現実がシンクロしているのではないか。

 また、ヒロインのセリフも面白い。先週などは、ボランティアで彼女をこき使おうとした商店街の若い経営者らに対して、「人の善意につけこんで労働力をタダで使おうとする。それは、やりがいの搾取です!」とタンカを切るシーンがあった。笑う半面、「なるほど」と思わざるを得ないものもあった。大学を卒業して就職したのにすぐに辞める学生を筆者は何人も見てきたし、相談にも乗った。ひどい会社になると「試用期間」という名目でこき使うだけ使って、正社員になれるかどうかの見込みもないものすらあった。そんな会社が新入社員に言いがちなセリフが「やりがいがある」「頑張れば報われる」だ。だが実際は社員を大切にしようとしないそんな企業は、まさに「やりがいの搾取」をしているといえる。

 また、『逃げ恥』のヒロインは、なんでも先回りして理屈っぽく言い抜けてしまう自身の性格を「小賢(こざか)しい」と卑下して苦悩する。その彼女の姿には、従来の日本の女性らしさが依然として求められている現状への皮肉も感じられる。また、「小賢しく」していなければ生き抜いていけないのが今の社会でもあり、ある意味、社会への当てつけかもしれない。だが、最終回で夫から「小賢しいなんて思ったこと、一度もありません」という言葉をもらった妻が、夫に思わず抱きつくシーンについては番組終了直後からSNSに「感動した」などの言葉が飛び交った。

 軽やかなタッチながら、この時代の「空気」を鮮やかに切り取った『逃げ恥』。こんな切れ味鋭い番組が続けて生まれるようになれば、テレビ復権もあるのかもしれないし、メディアの世界で働くことを強く願う教え子たちにも明るい未来が訪れるのだろう。

 (近畿大学総合社会学部准教授)