金井啓子の現代進行形

対立の米記者と会食の日本の記者

2017年3月2日

メディアと権力との関係に差が

 主要メディアを「国民の敵」と呼び、「フェイクニュース(偽ニュース)」を報じていると批判するトランプ米大統領と、報道機関との関係が悪化の一途をたどっている。ホワイトハウスのスパイサー報道官は先週、定例の記者会見の代わりに選別したメディアのみの取材に応じ、政権に批判的なCNN、ニューヨーク・タイムズ紙など少なくとも10の報道機関を締め出したのである。

 これに対してメディア側は猛反発。ニューヨーク・タイムズ紙が「透明性の高い政府を実現するためには、報道の自由の維持が大切で、国民の利益にかなう」との声明を出す一方、出席を許されたAP通信とタイム誌が取材をボイコットしたほか、政権に好意的な報道の多いFOXテレビのキャスターも「(取材機会が)有資格の組織全てに開かれるべきだ」とツイッターで発言した。

 トランプ大統領は選挙で予想外の大勝利を収めて就任したばかり。人気の高い政権を批判すれば読者や視聴者の支持を失うのではないかと懸念してしまいがちだ。だが、米国では逆の現象が起きている。権力者である大統領と距離を置き、権力のチェック機関として機能している米メディアに対して多くの米国民は不快に思っていないのだ。それが証拠に、ニューヨーク・タイムズの有料電子版の購読者がトランプ政権発足以降、大幅に増えている。

 翻って日本のメディアと政権の関係はどうか。実は、象徴的な出来事が今週起きたばかりだ。東京・赤坂の中国料理店で安倍首相と内閣記者会加盟報道各社のキャップが懇談会を開いたのだ。

 おそらくこの会食は事前に計画されていたものなのだろう。だが、今まさに森友学園をめぐる問題や「共謀罪」に関する審議で政府・与党と野党が対立している。この時期に、いくら事前に計画されていたとはいえ、そして一部でうわさされているような、安倍首相が会食の場でメディアに圧力をかけるようなことがなかったとしても、世間から政府との癒着を疑われるような行為は、メディアも自粛すべきではなかっただろうか。これが米国なら世論から猛反発をくらうだろうし、こんな時期にほいほい勇んで政府首脳と会食をしようとするメディアもないのではないか。

 しかし、日本のメディアの一部には昔から首相と夕食を共にするのがステータスだと勘違いしている記者もいるらしく、それがペンの矛先を鈍らせる一因とされている。日本と米国では、メディアと政府トップの距離のとり方はこれほどまでに違う。対立よりも融和を好む日本の風土に合っているのかもしれないが、言うまでもなくメディアの役割は権力のチェックである。

 報道陣が安倍首相との会食を楽しむのならば、国会で森友学園などの議論が出尽くしてから、そしてその議論について読者や視聴者のために十分な報道を尽くしてからでも遅くはない。

 (近畿大学総合社会学部准教授)