金井啓子の現代進行形

コンサートで防災訓練を体験

2017年3月9日

災害はところ構わずやって来る

 大阪・中之島のフェスティバルホール。アンコールのエルガーの行進曲「威風堂々」が突然途切れ、会場が暗くなった。ハンドマイクを持った係員が舞台に出てきて「大阪市内で震度6強の地震が発生しました」と話し、ホールの耐震設計はしっかりとしていること、席に座り続けることを2千人を超す聴衆に呼びかけた。

 実はこれ、今週行われた「大阪フィルの夕べ&防災訓練コンサート」の一こま。私もその場にいた。無料で行われたこのコンサートのチケットを持っていた友人が「防災訓練つきのコンサートに行きませんか」と誘ってくれて、音楽が聴ける上にその場で防災訓練に参加できるという未体験の興味深さにひかれ、参加を決めたのだった。

 大フィルの演奏はすばらしかった。映画「スター・ウォーズ」のメインテーマでは映画の場面を思い出してワクワクし、私が幼い頃から大好きなドヴォルザークの交響曲「新世界より」にはどっぷりと浸った。合間に行われた「指揮者体験コーナー」では、聴衆から選ばれた3人が指揮者の角田鋼亮さんに教わりながら指揮すると、それぞれの指揮棒の振り方で三人三様全く違う色合いを持ったブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」が紡ぎ出された。

 アンコール曲の途中で防災訓練が始まること、避難階段で建物の外に避難することは、あらかじめ知らされていた。「威風堂々」の演奏が始まると、どこで途切れるのか少しドキドキしながらその瞬間を待っていた。でも、いざその時が訪れても冷静に受け止めて係員のアナウンスを聞いていられたのは、前もって事情を知っていたからだろうか。

 訓練は非常にリアルだった。具合が悪くなった人を手当てするためのコーナーが設けられ、聴衆の中に医療従事者がいないか呼びかけると、私のそばに座っていた女性が戸惑いながらも立ち上がった。「地震の後に建物の上層部で火事が起きた」という知らせが届くと、建物外への避難が始まった。

 係員の指示で、車椅子の人が最優先とされ、その後にホールの3階にいる聴衆、次に2階にいる人たちが全て出た後、最後に1階という順で避難した。私は1階の前から十数列目という、コンサートを聴くには最高の座席にいたのだが、本当の災害時に最後まで待たされたらどんな気持ちになるのだろうとやや不安にもなった。

 出口への階段を下りる時には、年配の女性が手すりを握りしめてゆっくりと歩いていたが、まだ足腰がしっかりとしている自分にも随分長く感じられた。

 まもなく東日本大震災から丸6年。災害は思いもかけない時にやってくる。今回のように、災害が発生する時刻をあらかじめ知っておくことは不可能だ。それでも自分の身体を使って訓練をしておくと、本当の災害が起きた時の自分を想像でき、それが“本番”の自分を助けてくれるのかもしれない。

 (近畿大学総合社会学部准教授)