金井啓子の現代進行形

今も続く戦渦での医療活動

2017年3月30日

国境なき医師団の写真展で知る

 人生初の入院と手術から5年。事前の検査で乳がんのだいたいの症状は把握できたと主治医に言われていたが、手術を行うまでは身体の中の様子が全て分かるわけではないため、問題の部分を全部取り去ったことを確認できたと、術後に聞くまでは不安だった。

 だが、そういった懸念はあったものの、入院生活は快適そのもの。医師も看護師も丁寧に説明してくれるし、栄養バランスの取れた食事が日に3回決まった時間に出てくる。症状さえ許せば入浴ができるし、必要なものはたいがい売店で買えた。院内の決められた場所では携帯電話で会話をしたりメールを送ることもできた。そして何よりも、身の安全が脅かされていると感じるような事は一度もなかった。

 病院における身の安全など、この国にいれば当たり前のことだ。だが、その「当たり前」が保障されていない国が世界の至るところにある。

 そのひとつがアフガニスタンである。2015年10月にアフガニスタンのクンドゥーズにある病院が米軍に空爆された。その病院は国際医療支援団体「国境なき医師団(MSF)」が運営していたが、患者とスタッフあわせて42人が命を落とした。

 先月末に、MSFが「国境なき医師団“紛争地のいま”展」と題して梅田で開いた写真展を見てきた。これは「病院を撃つな!」と銘打ったキャンペーンの一環で、私が以前勤務していたロイターで同僚だった男性が今はMSFの広報部門にいて、その人が教えてくれたのがきっかけでこのイベントを知ったのだった。

 会場に入ると、カメラのマークに丸印がつけられ「撮影可」と書かれた看板が目に入った。珍しいと思ってその広報の男性に尋ねると、「SNS時代だし、シェアされてなんぼだからね」との答え。むしろそういった形で広まってほしいという考えらしい。会場に展示されていたのは、空爆を受けた病院の中でぼうぜんとしている人たち、廃虚のような病室で治療を行う医師と患者など、非常に力強い写真ばかりだった。

 会場の出口近くの壁にはたくさんの小さな写真が貼られ、白い紙がおのおのの写真の上に重ねられていた。メッセージを書くために白い紙を外すと、MSFが支援している国々の人たちの笑顔の写真が現れ、メッセージを書けば書くほど笑顔の数が増えるという仕組みだ。メッセージを書いたその白い紙を、隣にある大きな写真のボードに貼り付けていくと、爆撃を受けたアフガニスタンの病院の写真が白いメッセージカードで覆われて姿を消していく。

 強いメッセージ性を持ったこの写真展をより多くの人が見て、病院が安心できる場ではない国が数多くある現状を知ってほしいと強く願った日だったが、写真展はたったの4日間で終わった。会場費用が高くてままならないとの話だったが、残念この上ないという気持ちをこめて今回のコラムを書いた。

 (近畿大学総合社会学部准教授)