金井啓子の現代進行形

存続厳しい落語の「田辺寄席」

2017年4月13日

笑いで心と伝統話芸に潤いを

 仕事によって、人はそれぞれ忙しい時期が違うのだろうが、私のような教員にとっては新年度が始まる4月は特に忙しい。授業が新たに始まることもあるが、入学したての1年生たちにさまざまな情報をきちんと伝えて、スムーズに新生活をスタートできるようにサポートせねばならず、教員も緊張を強いられる季節なのだ。

 そんな緊張をほぐそうと、4月はじめのある夜、大阪市内にある天満天神繁昌亭へ出かけた。7年近く前に、私が本紙に書いたコラムをご覧になって手紙をくださったことからご縁が始まった、笑福亭円笑さんの喜寿の落語会が開かれたからだ。東京出身の私は近頃だいぶ大阪弁にも耳が慣れてきたが、上方落語協会所属では唯一という師匠の江戸弁はやはり耳に心地よかった。

 他にも笑福亭銀瓶さん、桂雀太さん、林家菊丸さんが共演。この3人が座談会を開いて円笑さんの目の前で円笑さんについて褒めたりけなしたりという趣向があったりと思い切り笑い、日頃の緊張もほぐれて家路についた。

 他のエンターテインメントと比べて落語の“費用対効果”はかなり高い。値段に比べて十分に元が取れるのだ。繁昌亭の夜席で2時間ぐらい大いに笑って2千〜4千円程度。昼席は3時間で一律3500円、朝席ならば2千円前後。しかも繁昌亭は大阪天満宮のすぐ横に位置し、入り口にも会場の天井にも数え切れないほどのちょうちんが美しく並び、なんとも言えない風情がある。国内のあちこちにさびれ切った商店街が目立つ中で、日本一長い上に人を避けて歩くのが難しいほどにぎわう天神橋筋商店街にも近い。大阪観光は大阪城や道頓堀、ユニバーサルスタジオジャパンが定番だが、上方落語を楽しむのもしゃれているのではないか。

 ところで、同じく大阪市内にある田辺寄席が経営難に陥っているという話を耳にした。田辺寄席のホームページを見てみると、訪れる人が大幅に減って「大ピンチ」であり、「このままでは田辺寄席は継続できなくなります。多くの方のご参加が最大の支援です」と大きな字で書かれていた。仮にいったん途絶えてしまえば、それを再興するのは容易なことではないだろう。人が演じるこういった芸は、聴いて楽しむ客がいてはじめて成り立つ。

 たまには寄席に行って笑い転げ、心のあかをぬぐい去ると同時に、落語を育てる寄席もなくさないようにしたいものだ。私自身も寄席通いをもう少し頻繁にして、緊張をほぐしながら仕事にも励み、はやり言葉のようにもなっている「ワーク・ライフ・バランス」つまり「仕事と生活の調和」を図っていきたいと願っている。

 (近畿大学総合社会学部教授)