金井啓子の現代進行形

バランス崩した政治への警告?

2017年6月1日

相次ぐ安倍政権「ノー」の告発

 レイプされた女性が警察に告発するだけでも勇気がいるのに、名前と顔までさらして記者会見する例は少ない。それだけ女性の怒りが大きかったということだろうし、この国の異常性を示している。

 週刊新潮が記事にした“総理をよく知る男”こと、ジャーナリスト山口敬之氏の下半身スキャンダル。その山口氏からレイプ被害を受けたと準強姦(ごうかん)罪で警視庁高輪署に告訴した女性が5月29日、東京霞が関の司法記者クラブで記者会見した。逮捕直前で警視庁からストップをかけられたことや、その後の捜査でも不起訴処分とした検察に怒りを向けた。今後、検察審査会が女性の言い分を認めるかどうかが注目される。

 それにしても最近は、内部から安倍政権に「ノー」を突きつける現象が顕著になってきた。その典型が文科省の前川喜平前事務次官の記者会見だ。5月17日付の朝日新聞がスクープした加計学園問題に関する「文科省の記録文書」が本物であると証言したのだから、これは明らかに内部による安倍政権への反発だろう。

 先の被害女性は政権内部の人ではないが、訴えられた山口氏は安倍首相に近いジャーナリストであるのは周知の事実。テレビに精力的に出演して森友学園問題の火消しに躍起になっていた。こちらは政権に近いジャーナリストが逆襲を受けた例だが、内部批判と同様、結果として安倍政権にダメージを与えた。

 ところで山口氏はフェイスブックを使って反論している。一方、女性はカメラが居並ぶ中で顔を出してまで記者会見した。山口氏も身の潔白を主張するのなら、一部のみに向けられたSNSではなく、ぜひ記者会見で話をしてほしい。

 政府も前川氏の証言を打ち消すのに必死だ。しかし前川氏の証言に正面から反論するのならともかく、明確な証拠と調査が不透明なままに記録文書を「ない」とし、「前事務次官は出会い系バーに入り浸っていた」などと本筋とは無関係な下半身スキャンダルを一部メディアに流している。

 国民もバカじゃない。各メディアの世論調査でも、多くの国民が加計学園問題に関する政府の説明は「納得できない」としている。内閣支持率も一時ほどの勢いはなく、下落傾向だ。このまま国民が納得できなければ、安倍内閣は一気に信頼を失う。

 この世界は自然界も人間社会もバランスで成り立っている。そのバランスが崩れたとき、自然界では元に戻そうとする力が働く。社会も同じだ。崩れた政治バランスを取り戻そうとする目に見えない力が、ようやく働きだした。安倍政権に対する元官僚などの告発が起こるのは独善的な一強政権への反動と警告であり、その流れは今後も続くだろうと予想している。

 (近畿大学総合社会学部教授)