金井啓子の現代進行形

フェイクニュース横行の社会

2017年9月14日

求められるファクトチェック

 「ポスト真実の時代」という言葉をよく耳にする。「ポスト真実」はオックスフォード英語辞典が2016年を象徴する「今年の単語」に選んでおり、「世論形成において、客観的事実が、感情や個人的信念に訴えるものより影響力を持たない状況」を意味する。自分が信じたいことのみを自分の中に取り入れる傾向の強まりを反映している。

 また、「フェイクニュース」という言葉もよく聞く。ネット上にはデマを意図的に流すニュースサイトもある。だが一方で、客観的な真実であっても、自分が支持していない政治家の発言や嫌いな報道機関の情報ならば「フェイクニュース」と決めつけるケースも多い。

 こうした状況下で「ファクトチェック」、つまり言説や情報の真偽を検証する活動の重要性が注目されている。マスコミ報道を検証するウェブサイトの運営・管理などを行っている非営利型の一般社団法人日本報道検証機構の楊井人文氏によると、ファクトチェックには、真偽が不明な情報源の信ぴょう性を検証するものと、政治家などの公人の言説を検証するものがあるという。諸外国では動きが活発化しており、報道機関がファクトチェックを行うケースもあれば、第三者機関が行う場合もある。

 だが、日本で今のところ目に入るのは、朝日新聞が昨秋から数回掲載したファクトチェック記事程度だ。そういった状況の中で、楊井氏ら数人が6月にファクトチェック・イニシアティブ・ジャパン(FIJ)という団体を立ち上げた。協力する団体や個人を募り、ガイドラインを示して、ファクトチェックの概念を広めていくのだという。

 実は私も先月からFIJの活動に参加し、先週は政治に関するファクトチェックについて考える研究会に東京で出席した。研究会には朝日新聞政治部の国会担当でファクトチェック記事にも関わってきた南彰記者が講師として参加した。

 南記者によると、朝日の試みは読者に好評で、「ジャーナリズムがやるべきことをやっている」といった声が寄せられているという。ただし、南記者は課題として、速報性を持たせられるか、基準を示して透明性を担保できるか、特設サイトを置いて可視化させられるかといった点を挙げた。

 また、他の報道機関や第三者機関も加わることが欠かせないと私は考えている。冒頭に書いたように自分が嫌いな政治家や報道機関が流した情報は「フェイクニュース」と断じる傾向が強まる中では、政治的な考え方の違いとは異なる次元で真実をあぶり出し、その上で政治に対する自分の方向性を見定めることが欠かせない。「ファクトチェックは政権批判の道具ではない。意見のよしあしではなく、事実に基づいているかをチェックするという原則が大事」と語る南記者の意見に私も賛同する。この活動が良い形で広がるよう私も貢献したいと考えている。

 (近畿大学総合社会学部教授)



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