金井啓子の現代進行形

暴力を笑えないと無粋なのか

2018年1月11日

傷つく人がいない笑いをもっと

 大みそか、私は家族と年越しそばを食べ年賀状を書きつつNHKの『紅白歌合戦』を見た。代わり映えしない番組だとツッコミながら、私自身も例年通りの代わり映えしない年末を過ごしたのだ。

 今回の紅白で最も印象に残ったのは司会の内村光良さんだった。コンビとしての芸だけでなく、コント、映画監督や俳優もこなす。だが、紅白という大舞台での司会はどうなるのか、人ごとながら少し心配していた。だが、一年を締めくくる大イベントの雰囲気を、大げさすぎずに盛り上げる言い回し、出演者の話が長引くと絶妙に断ち切る間合いの良さは、司会としての役割を十二分に果たしていた。

 そして、時折はさむコントでは別人と見まごう全く異なる表情を見せる。NHKをちゃかす場面はいつもながら風刺が効いている。だが、誰か特定の人を追い込んだりばかにしたりはしていない。NHK職員も、彼のコントを見て傷ついたりはしていないだろう。

 一方、ほぼ同時間帯の日本テレビ系の『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』の大みそか年越しスペシャルの内容が話題になっている。顔を黒く塗って黒人俳優の物まねをした場面は、差別的だったとして欧米のメディアに取り上げられた。

 その場面も気になったが、それ以上に私の関心を引いたのは、ベッキーさんに対して「不倫のみそぎ」と称してムエタイの選手がキックを腰に浴びせたことだった。報道によると、番組内では予想外の展開に驚き、蹴られて非常に痛がっていたベッキーさんが、後になってラジオ番組で「タレントとして本当にありがたかった」と語ったという。どのような気持ちでそう語ったかは知る由もないし、彼女の気持ちはあえておいておく。

 ただ、二つ気になることがあった。あくまでも仮の話だが、たとえば彼女に新たな交際相手がいて妊娠しているとしたら非常に危険だし、妊娠していなくてもプロのキックを素人が受けるのは骨折などのリスクがある。そういった影響が出た時に誰がどう責任を取るのだろうか。芸能人というのはそこまでリスクを負わないといけないのだろうか。それとも、不倫騒ぎを起こしたいま妊娠につながる行為をするはずがないということなのか。

 もう一つ気になるのは、暴力を笑うことがいつまで続くのかということだ。「どつき漫才」など一種の暴力で笑いを取る芸が全くないわけではない。この番組の人気の高さを考えれば、暴力を笑えない私が少数派であり笑いを理解できない無粋な人間なのだろうか。だが、弱い立場にある人間が困るのを見て笑って楽しむのは、粋で健全なものとはどうしても思えない。

 「格差社会」と呼ばれ、さまざまな理由で苦しむ人が増えている今こそ、その憂さを吹き飛ばす笑いは大切だ。傷つく人がいる前提ではない、スカッとした笑いがもっと出てこないものだろうか。

 (近畿大学総合社会学部教授)