金井啓子の現代進行形

出産は仕事に悪影響及ぼすのか

2018年8月9日

男性が女性より劣る場合も

 東京医科大学が入試で女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を抑えていたことが読売新聞のスクープでわかった。2010年の入試で合格者のうち女子が4割弱を占めたのをきっかけに、翌年以降は女子の合格者を3割程度に抑えるよう操作していたという。この動きの背景にあるのは、出産などで休職や離職する可能性があるとして女性医師を敬遠する空気だったといい、大学関係者は「必要悪」と答えているらしい。

 今回の件はネット上で大きな議論となっている。私の周囲でも関心を示す人が多いが、おおむね批判的だ。私もこれはあってはならないことだと考えている。「医者になる」という明瞭な目的のために学ぶのに必要な能力を測る試験だ。男子であれ女子であれ優秀ではない人が落とされることはかまわない。だが、優秀な人が女子であるだけで医者になる機会を奪われるなら、めぐりめぐって多くの人の命に関わる危険性がある。断じて許せることではない。

 だが、これはこの大学だけにとどまる話だろうか。他の医学部ではどうか。そして、他の仕事ではどうなのか。

 たとえばマスメディアの世界でも似た話は耳にしたことがある。入社試験の際に「女子の方が優秀な成績を取るケースが多い。でも、出産で休職・退職して穴があくことを避けるため、男子の点数にゲタをはかせることが多い」といった話である。

 出産で一定期間職場を離れる可能性がある優秀な女性記者を雇うことと、入社試験でより劣った成績を収めた男性記者を雇うことを比べてみる。試験の成績の良しあしが必ずしも記者の優劣とは比例しないが、国民が知るべき内容を報道するという大きな使命を考えると、一般的には後者の方が圧倒的に大きな損失をわれわれに与えていると思われる。

 これまでにも当コラムで書いたことがあったように、私は外資系の通信社が東京や大阪に置く支局で記者として働いていた。日本のマスメディアに比べると女性の比率はかなり高い職場だった。結婚のみを理由に退職する女性は見かけたことがない。そして、妊娠したと耳にした周囲の同僚たちの第一声もそろって「で、いつ復帰するの?」である。出産による退職が常識と口にする同僚は見たことがない。休職期を“穴”ととらえるならばそれを補うのが常識だととらえているのだろう。職場復帰してから第二子を生むためにまた休むケースもある。

 このコラムでいくら私がこんな個人的な体験を書いても、日本全体の流れになっていなければしかたないと思う人もいるかもしれない。でも、外資系企業とはいえ、日本人や日本育ちの人たちがかなりの割合を占める日本国内にある職場で、男性と女性を区別する動きが著しく弱い場もあることを知ってもらう意義は大きいと考えた。女性は男性より劣るといった常識からそろそろ脱却した方がいい。

 (近畿大学総合社会学部教授)