金井啓子の現代進行形

楽観と甘い予測が被害を招く

2018年9月13日

被災者の声を今後の反省点に

 私が住む大阪北部に台風21号が来たのは9月4日午後のことだった。その日の朝まで私にとって台風とは「数時間だけ強い雨風が続いたらさっと青空が現れるもの」というイメージしかなかった。正直に言おう。25年ぶりの規模という予報を聞いてもなお、私は台風をナメ切っていたのだ。

 関西の鉄道各社は運休する計画を前日に発表した。それを受けて、百貨店や商業施設、企業、学校が閉鎖を事前に決めた。今回の「計画運休」は、台風の被害を減らすことに間違いなく貢献しただろう。

 私が勤務する大学では新学期は始まっておらず、大学全体を閉鎖すると決まったので、私は自宅にこもった。まだ台風を軽んじる気分だった私だが、午後に入って雨が降り風が吹き始めると顔色が変わるのが自分でもわかった。多くの人たちが体感したあの風をあらためて描き直す必要もないだろうが、風に対して恐怖を私が抱いたのは初めてだった。

 わが家はマンションであり雨戸がない。あまりの風に何をしていいかわからなかったが、窓ガラスが割れる可能性に限りない現実味と恐怖を感じて、真っ昼間だったがとっさにカーテンを閉めてできるだけ窓から離れるようにした。「こんなばかげたことをするのは過剰反応か」とも思ったが、ほぼ本能的に思いついた行動だったのだ。結論から言うとこれは正解だった。外から飛んできたものが窓ガラスを突き破って室内に飛び込み、ぶつかった人が死亡するという事故が発生したのはご存じだろう。

 幸いなことに停電せずに済んだわが家ではずっとテレビをつけていた。だが、台風の現在位置の情報はあっても、台風の脅威にさらされている私のような人がどうすればいいのかという事前の情報は少なかった。鉄道会社の計画運休のように「不要不急の外出を控える」呼びかけをしていても、車を運転せざるを得ない人、外を歩かざるを得ない人へ、前もって身の安全を確保するための具体的なアドバイスがあってもよかったのではないだろうか。台風が過ぎ去った後も、被害のすさまじさが伝わる空港の映像を流すことも大切だが、停電や断水の状態が復旧するのはいつなのかという情報はそれ以上に欲しいものなのだと、長期間の停電・断水に苦しんだ友人の話から実感した。

 また、台風の2日後に私は所用のため東京にいた。北海道で大きな地震が起きた日である。大阪のテレビでは台風被害に関するニュースが流れていたそうだが、東京の朝のテレビは地震一色になっていた。ネット利用に慣れていない人が大阪の外にいて大阪の状態を知ろうとしたら、どうすればいいのだろうと大きな疑問が湧いた。

 被災しなければ見えないことは多い。被災者に役立つ報道をメディアが目指すならば、被災地にいて困った人たちの声を聞いて今後の報道手法や内容に取り込んでいくことは重要ではないだろうか。

 (近畿大学総合社会学部教授)