金井啓子の現代進行形

偶然出会った元日銀総裁

2018年10月18日

誰でも高齢で働ける社会に

 数日前に東海道新幹線に乗っていたところ、隣の空席に日銀の元総裁によく似た男性が座った。でも、そこは自由席。現役の時は警備の問題もあっておそらくグリーン車を利用していたはずで、いくら総裁をやめたとはいえ、まさか自由席には乗らないだろうし他人の空似ではないかという考えがまず最初に浮かんだ。でも、経済担当の記者だった私にとって、芸能人よりもずっと身近な存在とも言える日銀関係者を見間違えるはずもない。迷った末に思い切って声をかけてみると、案の定ご本人だった。

 スマートフォンを操作していた手を休めながら、気さくに話をしてくれた元総裁は80代前半となってもなお非常に元気そうで、現在は某大手企業のシンクタンクに勤務しているという。私が会ったその日は週末でどうやら家族と一緒の外出だったように見受けられたが、平日は今でも毎日出勤しているのだと話してくれた。80歳を超えても現役でいられるのは日銀出身しかも元総裁ということもあるだろうが、経験や能力の高さ、人脈の広さが評価されたからだろう。

 話は変わって、年金の受給年齢がまたまた引き上げられるかもしれない。政府内でそういった方策が検討されていると一部で報道されたのだ。報道では、年金の受給年齢を引き上げるので、それまでは自助努力で働いてほしいという政府の思惑があるとも伝えていた。この背景には、少子高齢化が進んで年金制度が維持できないことなどがあるが、政府はそういった状況への対策として高齢者でも働ける環境作りを進めていってくれるらしい。

 だが、ことはそんなに簡単に進むのだろうかと疑問に思えてならない。元日銀総裁ならば迎え入れたいと考える企業は多く、引く手あまただろう。しかし、ごく普通の生活を送ってきたようなサラリーマン経験者に、70歳や80歳を過ぎても働ける職場は果たしてあるのか。年をとっても彼らの能力や経験を職場で生かそうという企業は現れるのだろうか。

 年金はまだもらえない。だからといって働く職場もない。そういった状況を見越した結果、老後の生活が心配になって給料の多くを預貯金に回す人が増えていくことは容易に予想できる。もしそのような状況になれば消費が減ることも懸念され、そうなれば社会はますます先細っていってしまう。そうではなく、あの元日銀総裁のように、私も含め誰もが高齢になっても元気に過ごせる社会になってほしいと願わずにはいられない。そのためには自分自身で労働市場における自らの価値を生み出すことも大切だが、まずは周囲の環境が整えられることが何より肝要だろうと考えている。(近畿大学総合社会学部教授)



サイト内検索