金井啓子の現代進行形

ゼミ生が卒業制作で記事執筆

2018年12月13日

“取材経験”を社会で生かす

 私が所属する学内の専攻では卒業論文を提出しないと卒業できない。実は今年の締め切りは明日である。私のゼミ生たちも最後の追い込みに必死だ。

 ただ、わが専攻は教員の専門が多様なので必ずしも卒業「論文」ではなくても良いという考えで、「卒業論文または卒業制作を提出すること」となっている。雑誌や動画を提出する学生もいれば、私のゼミのように「取材を行って記事を卒業制作として提出する」ゼミもある。

 私のゼミでは、3人以上に取材して参考文献からの引用も記事に盛り込むことになっている。テーマは「この社会で起きている出来事のうち自分が解き明かしたい疑問があるもの」となっており、今年のゼミ生が選んだのも、銭湯、引退後の競走馬、おひとり様、東南アジアの教育、若者の車離れ、子どもの福祉、ゆるキャラ、あおり運転、障がい者スポーツ、スポーツビジネス、犯罪者の更生、女子プロ野球、映画とLGBT、仮想通貨、朝鮮学校…と幅広い。

 ゼミ生はみんな記者志望なのかとよく尋ねられるが、そうではない。今年の4年生を含めるとゼミの卒業生が100人の大台に乗るのだが、実際に記者になるのは数人程度だ。広告や番組制作なども含めたメディア業界全般に広げても2割ほどだ。メディア業界を目指して夢破れた人もいれば、最初からそれ以外の業界を狙う人もいる。金融や不動産、製造業、小売りなど幅広い業界にゼミ生たちは散っているが、記者を目指す人ではなくてもゼミでの“取材経験”は社会に出て生かせると考えている。

 記事制作は、取材相手に送る企画書と手紙を書くことから始まる。どんな手紙を書けば多忙な社会人が学生の取材に応じようと考えてくれるのか知恵を絞る。取材ではスーツ着用が基本なのだが、先方から「わざわざスーツじゃなくていいよ」と言われて何を着るべきか悩む。また、先方の指定された場所に伺うのだが、逆に大学に出向くと言われて驚いてしまう学生もいる。質問が途切れたらどうしようか…等々尽きない悩みをゼミ内で共有しつつ経験を重ねていく。

 実はこの取材、非公開を前提として依頼している。学生の取材に応じてSNSなどで誤った内容を拡散されることを危惧する人もいるようなので、取材経験そのものを優先しようと、非公開とした。出来上がる記事はどれもすばらしい内容で私自身も学ぶことが多いので、不特定多数と共有したいと思うこともしばしば。取材相手に不安を与えない学生を育てる指導力をきちんとつけることが、私に与えられた課題でもある。ただ、非公開だからこそめったに取材に応じないような人が応じてくれるケースも実際にあり、悩ましいところでもある。

 さて、明日は来年4月からのゼミ配属の希望提出の締め切りでもある。どんな学生がどんな記事を書いてくれるのか、楽しみにしつつ応募を待っている。

(近畿大学総合社会学部教授)