居場所をつくろう 共生の現場から

第3部 障害者(中) 「拠点から地域へ」

2017年5月29日

スポーツ挑戦 身近に

自前の器具を付けてアーチェリーに取り組む田中さん=大阪市東住吉区の長居障がい者スポーツセンター
「ひろば」で元気に体を動かす参加者ら=大阪市住之江区の住吉公園体育館

 表に出て体を動かしたほうが絶対いい−。初夏の足音が近づく平日の昼下がり、大阪市東住吉区にある長居障がい者スポーツセンターの屋外運動場で、右半身まひの田中一雄さん(67)がアーチェリーの弓を引いていた。右肩に巻いたベルト上の器具を使い、ほとんど力の入らない右手をフックに掛けた。ドン、50メートル先の的に命中。額にじんわり汗を浮かべながら、「なっ」。日に焼けた顔に白い歯が光った。

■1千万人突破□

 長居障がい者スポーツセンターは、1974年に開館した日本で初めての障害者のためのスポーツ施設。利用者は年々増加し、昨年9月には累計で1千万人を突破。大阪市此花区の舞洲(まいしま)と合わせた年間利用者は2015年に過去最多の64万8815人を記録した。

 長居は昨年度プールの改修工事があり、年間利用者数が5年ぶりに減少に転じたが、センター内にある体育館は「毎月予約で満杯状態」(関係者)と依然活況を呈している。水泳やボッチャ、アーチェリーなど利用者が主体となった施設公認クラブの活動も盛んだ。

 三上真二館長は「2020年の東京パラリンピック決定から障害者のスポーツがさまざまなメディアで取り上げられ、自分もやってみようと一歩踏み出す人が増えているようだ」と分析。また利用者層の変化を「これまでの家族から、ヘルパーさんが連れてくることが増え、生活全般において障害者の選びやすい仕組みができているように感じる」と指摘する。

■自前の器具で□

 田中さんがアーチェリーと出合ったのは12年前。脳出血の後遺症で仕事を失った後、沈んでいた時期を乗り越え「何か始めよう」と長居を訪ねた。

 当時はまだ右腕が上がり、口で引く「主流のスタイル」で練習していた。年々力が入らなくなり、昨年に自分用の器具を考案。アーチェリークラブの仲間の協力もあり、工夫しながら競技を続けている。

 市内にある自宅から長居までは電車を乗り継ぎ「1時間以上」。右半身の「ぴりぴりとした痛み」は練習中も消えないが、「この施設のおかげで体を動かせる」と田中さん。この日は、30メートルから50メートルに距離を伸ばして2度目の挑戦で、「やるからには大きな大会に出たい」と力強い。

■それが“普通”□

 施設を管理、運営する大阪市障害者福祉・スポーツ協会は、障害者がより身近な場所でスポーツに親しめるよう各区の作業所や関連団体と連携しながら、区民センターや地域の体育館を会場にした「障がい者スポーツ・レクリエーションひろば」を展開中。

 今年6月には各区のスポーツ推進委員を対象にした障害者スポーツ指導員の養成講習会を開く。ひろば活動を下支えするボランティアの地域サポーターらの拡大が狙いだ。

 「障害のある人が普通に地域で過ごし、買い物し、スポーツする。それが普通という時代は確かに来つつあり、来てほしい」と願う三上館長。施設で芽吹いた共生の芽は地域へ、着実にその葉を広げている。