連載・特集

澪標 ―みおつくし―

人手で増やされたソメイヨシノ

沖中 玲子
株式会社Line Works代表取締役
2010年2月12日

 はじめまして。株式会社LineWorksの沖中玲子と申します。5回にわたりこのコーナーにコラムを書かせていただくことになりました。どうぞよろしくお願い致します。

 LineWorksでは、国内で育った「杉」や「桧」といった木材を使ったモノづくりをしています。具体的には、身近な森の木を使った住宅建築や家具制作、さらには、「森林」や「林業」といった分野へのさまざまなコーディネートやサポートといった仕事をしています…とはいえ、なかなか皆さんにイメージしていただくのは難しいかと思いますので、詳しくはおいおいお話していけたらと思っています。

 さて、早いもので、今年ももう節分が過ぎ、少しずつ春の足音が聞こえてきそうな季節になりました。もうひと月もすれば、修了式や卒業式、さらに入学式や入社式へと、春の行事が続きます。今年も、それぞれの笑顔を、それぞれのシーンを、梅や桃、満開に咲き誇る桜が彩ってくれることでしょう。

 そんな、私たちが大好きな桜「ソメイヨシノ」は、花が葉より先に咲く「エドヒガン」と大きくて整った花形の「オオシマザクラ」を交配することで生まれた観賞用の園芸品種。江戸末期から明治初期、染井村(現在の東京都豊島区駒込だとか)の造園や植木の職人たちによって生み出されたとされていますが、実はこのソメイヨシノ、自然に増えることができないことをご存じでしょうか?

 ソメイヨシノには「種ができない特性」があるのです。だから人の手による以外に子孫を残す手立てがなく、これまで挿し木や植え替えによって広められてきました。そう、すべてのソメイヨシノは、元をたどれば1本のソメイヨシノにつながり、すべてのソメイヨシノが1本のソメイヨシノのクローンという訳なのです。

 毎年、ソメイヨシノの開花を予測する「桜前線」が発表されますが、条件が整えば一斉に花が咲き、また一斉に花を散らすのは、遺伝子が同じクローン植物だからこそなのです。

 最初はたった1本から始まったソメイヨシノは、長い年月をかけ、人の手を介して全国各地に増え広がりました。これは世界に類を見ないと言われています。

 毎年、多くの人が楽しむ春のお花見。今も昔も、早朝からの「場所取り」は新入生や新入社員の仕事だったりしますが、満開の桜の下で過ごすひとときを愛する日本人は、実は植物との共生がとても得意なのです。

 ソメイヨシノの物語に触れるたび、やっぱりソメイヨシノは名実ともに日本の春を象徴する樹木なのだと感じます。

 そんな「日本の風景」を演出してくれるさまざまな樹木がありますが、また一方では、「日本の文化」を支えてきた樹木もたくさんあるのです。

 そこには、ソメイヨシノの物語と同じく、世界に類を見ない「森の物語」があります。

 その物語については、また次回、お話させていただきます。

  (大阪府豊中市)