澪標 ―みおつくし―

「美術」が仕事 その5

中津海智子
ギャラリーなかつみ/乙(いつ)企画代表
2012年11月27日

 さて、最終回を迎えました。画商の仕事も商売に始まり、美術・文化に寄与する役割までお話ししたことになります。

 商売ですから儲(もう)けることが第一、とはいえ扱うのは人間の精神活動の賜物(たまもの)であり、人間が人間たる所以(ゆえん)でもある大いなる結実と言うべき美術品です。自分の手元であれ、お客さまのお傍(そば)であれ、美術館・博物館などの文化施設の所蔵品としてであれ、目を楽しませ、心を養い魂を育てる、人間に必要不可欠な栄養をお届けするのが本来の仕事やと思ってます。

 メットの名物館長だったトマス・ホーヴィングは著書の中で「美術商とは褒め称(たた)えられることのないキュレーター(学芸員)」と書き、「美術商の存在なくしては、メットがこれほど貴重な美術品を多数所蔵することはなかった」との考えから『偉大な画廊展』と銘打ち、展示室まるまる一室を使って伝説的な画商氏から購入した名品400点を展示したことがあるとか。

 美術館・博物館が図書館同様、教育委員会の管轄下にあったように、美術や文化は教育に必要不可欠な要素であり、前出のルーブル美術館や大英博物館のように一国を代表する魅力的な観光資源でもあるわけで、大切に守り育てる必要があるのやないでしょうか。

 橋下徹大阪市長は文化事業をばっさり切って捨て、返す刀で「自助努力を」と言うてはりますが、それには以前にも触れたように相続税の優遇や寄付控除など政治的な環境整備が先決のはず。また、『行政の役割はアーティストに活動の場を提供すること』との考えも、なるほど一理はありますが、では物故作家はどうすればいいのやら。結局、誰かがやらんとあきません。

 戦時に名品名宝を持ち出した蒋介石の例を引くまでもなく、美術や文化は「国の顔」であり、存在意義そのもの。メットの設立も、アメリカという伝統も文化もない若い国家の施策であったことを思えば、国や地方自治体が積極的に関与せずして美術や文化を守ることはできまへん。

 もちろん費用も掛かりますが、官も民も協力して、ぜひとも大阪を魅力的な都市にしたいもの。美術や文化は確実にその一翼を担うことのできる逸材。どうか当コラムの賢明な読者の皆さまにはご賢察戴(いただ)き、お知恵を拝借したいものです。

 美術品を保護し、流通させ、顕彰する画商の仕事は、規模は小さくとも文化事業そのもの。儲けるのも、商売とは言いつつ、仕事を継続して続けるためには必須のこと。

 大不況の昨今、実に微力ではありますが、私も画商の端くれとしていささかなりと貢献したいと考えてます。

 今年2回目の企画展も終了したばかりですが、これからも「美術が仕事」でがんばります。美術や文化のために、皆さまのご理解とご協力をお願い申し上げますとともに、拙文凡稿のご高覧に深謝申し上げまして、お後と交代致します。ほんまにありがとうございました。

 (なかつみ・ともこ 兵庫県西宮市)



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