澪標 ―みおつくし―

ニッポンへようこそ!

堀井 孝容
内科胃腸科堀井医院院長
2017年1月13日

ビョウキニナリマシタ! 救急車呼ンデクダサイ!

 言葉が通じない外国で病院にかかる必要に迫られた時、不安な気持ちは道に迷った時の比ではないだろう。日本語どころか英語もまったく話せない人は、日本で病気になったら一体どうしているのだろう? 関空の対岸にあるりんくう総合医療センターでは、英語・中国語・スペイン語・ポルトガル語に対応し、厚生労働省の外国人患者受け入れ医療機関の認証を受けていると聞いた。国際診療科の南谷かおり先生にお話を伺った。

 「確かに外国からの患者さんは増えてますね。うちは関空の搬送指定病院ですけど、ここ数年で2倍くらいになりました。以前は南米からの出稼ぎでスペイン語・ポルトガル語の需要が多かったんですが、観光客誘致で中国語系・英語系の訪日外国人患者さんが激増しています。現在の通訳件数は英語3割、スペイン語・ポルトガル語あわせて3割、中国語2割、フィリピン語1割といった感じで、英語だけしゃべれても対応出来ません。心配なのは未収金で、海外と違って日本では治療費は後払いですから、未納のまま帰国されたらお手上げです。重症例は医療費がかさみ、保険に未加入だと患者さんも支払えません。それから通訳の問題も深刻です。医療用語って特殊ですから、添乗員や航空会社のスタッフが患者さんの通訳をしてくれても、医療になると難しいですね。だから当院では医療通訳を独自に養成して対応しています。でも外国人を診療したからといって病院に追加で報酬が支払われるわけではなく、誰が通訳費を支払うべきか日本では課題となっています。当院では重症の患者さんも多いため、結構大変です」

 医療通訳の方々にもお話を伺った。日本人のみならず外国の方も通訳として働いておられた。皆さん動機はさまざまだが、共通しているのは以前外国にお世話になった、または日本にお世話になったから、恩返しがしたいという気持ちのように思われた。ボランティアに近い報酬で日々勉強もしながら献身的に働いておられる姿を見ると、ただただ頭の下がる思いである。

 今は南谷先生や有償ボランティア通訳者のような方々の献身的な働きで、なんとかやりくりしているのが実情のようだ。東京オリンピックを機に、政府もやっと外国人診療に対して重い腰をあげたと聞く。だが、そろそろボランティア精神でなんとかなるだろうといった発想はやめにしようではないか。国が医療通訳制度を確立し、仕事に見合った手当てが出る仕組みを作らねば、増え続ける患者さんに早晩対応出来なくなるのは目に見えている。

 「ビジットジャパン」いい響きだ。「成長戦略」結構なことじゃないか。しかしお金もうけのために外国から観光客を呼ぶだけ呼んで、何か起こったら医療機関に責任も費用も全部丸投げでは、うわべだけの「おもてなし」の化けの皮はすぐに剥がれてしまうだろう。「日本には言葉の通じる病院があってよかった。安心して医療が受けられた」。そう思われてこそ「ニッポンへようこそ!」と胸を張って言えるのではないか。

 (ほりい・たかひろ、大阪府茨木市)