澪標 ―みおつくし―

「長屋が文化財に」そんなバカな!

寺西 興一
大阪府登録文化財所有者の会事務局長
「どっぷり、昭和町。」実行委員会会長
2017年2月10日

 人生は、思いもかけないことから激変するものである。

 自宅前の築70年を経た老朽長屋は、その寿命を終え、賃貸マンションに建て替えられようとしていた。

 たまたま私の友人が、壊す前に見せてほしいとのことがきっかけであった。その時に来られた菅正太郎氏が長屋を1軒でも残せないかと問われたが、私は、構造的な理由でお断りした。

 すると、彼は建築構造の専門家である西澤英和先生(現関西大教授)を呼ばれた。先生は、このつぶれかけた長屋をすごく褒めてくださり、さらに「登録文化財になるのでは」とまで言われた。「それは何?」ということで、大阪府の文化財保護課の林義久氏を訪ねると「戦前の大阪は、庶民住宅として長屋で埋め尽くされていたが、それがドンドンその姿を消していくので、長屋を登録文化財にしたい」ということであった。「長屋を文化財に?」。思いもかけなかったことであった。そして、決定的な一言。「全国で長屋としては、最初の登録文化財になる」ということであった。私は、公務員として「このことが、少しでも大阪府の役に立つのであれば」と思い、同意すると半年後には国の登録文化財になった。

 このことが各新聞に載ると人が集まり、カメラで写真を撮りながら「古いだけや」「これが文化財?」と口々に言っていた。

 当然のことであった。永く続いた「地代家賃統制令」で家賃が安く抑えられ、家賃収入では改修工事ができず、外観は建てられた時からほとんど手を加えられなかったのだ。

 しかし、長屋を残していくためには、借りてもらわなければならず、そのためには、外観をきれいにする必要があった。

 幸い外観を改装する業者として宮大工である川人良明棟梁(とうりょう)に恵まれ、老朽化した長屋が建設当初の姿に生まれ変わった。そのおかげで、工事中に「こんな長屋で飲食店をしてみたい」という人が現れ、広告もしないのに借り手が順次決まった。

 1年ほどして、講演会で長屋の再生について聞かせてほしいとの話があり、マンションを建設していたら、これだけの収益があったのにそれを犠牲にしているということを言いたくて資料を作り驚いた。

 実は、長屋再生の方が2倍以上の収益があることが分かったのだ。よく考えれば、当然のことであるが、マンション建設には1億7千万円の事業費が必要であるが、長屋改装には、1桁違う1700万円で済んでいる。マンションの場合、借金を毎年800万円返済しなければならず、また、建物の固定資産税等が百数十万円かかり、数万円で済む長屋との差によるためだ。“長屋さまさま”であることがわかった。

 私がこのことを見通していたわけでもないのに、この様な幸いに恵まれたのは、古いものを大切にしたいというみんなの心がなしたことだと感じている。

http://www.teranishike.com/

 (大阪市阿倍野区)