澪標 ―みおつくし―

アロマテラピーと記憶の関係 〜父に捧げたフランキンセンス〜

相神 ゆり
アロマとハーブのサロンarbre de l'espoir主宰 
2017年6月23日

 アロマテラピーをする上で大切にしていることは、香りは記憶と密接につながっているということです。私のセミナーでは、精油を目隠しにして、その香りに対して感じたことを表現してもらいます。時には、古い記憶を呼び起こして涙される方もいます。何か懐かしく感じるなど、嗅覚と記憶をつかさどる海馬は本能的に結びついているのです。

 フランキンセンスという精油は、アロマテラピーを知らない人にとってはあまり聞きなれないかもしれません。私はアロマを勉強し始めた時に、この精油を香って魂をゆさぶられるような感覚になりました。それはフランス滞在中に、ヨーロッパ各地で訪れた教会の香りにも似ています。

 フランキンセンスの歴史は古く、古代エジプトから薫香など宗教儀式や瞑想(めいそう)に使われてきました。キリスト誕生時に、三賢人が黄金と共に贈った高貴な物としても知られています。呼吸が深くなり、老化肌によいので美容液にも使われ、メディカルアロマではその薬効への研究が注目されています。少し難しい香りだと感じる方は、相性が良い柑橘(かんきつ)系と合わせてみてください。

 私が香りに関心を持ったのは、日本酒好きの父の影響かもしれません。これはフルーティーな香りだなどと、いつもうれしそうにお酒の蘊蓄(うんちく)を語っていました。趣味が高じて峨眉山人というペンネームで1994〜2009年までコラムを依頼され執筆していたこともありました。

 父は大学で物理を教えていましたが、サッカーに油絵にと多趣味な人でした。小さい頃は父が設計した信州の黒姫山の麓の山小屋で夏の間過ごしたり、金剛山の近くに引っ越したりと自然豊かな体験をたくさんさせてくれました。若い時は学生運動に没頭する情熱的な面も持っていたそうです。

 そんな父が入院したのは昨年の10月。母の時と違って覚悟を持って父の病気を受け入れていました。それでも病院に近づくと涙が出てきて、祈るような気持ちで昨日より状態が悪くなっていませんようにと願ったものです。私は直感的にフランキンセンスとラベンダーの精油を選び、行く度にアロママッサージをしました。その時間は、父にとっても私にとってもとても穏やかで安らかなひと時で、アロマテラピーが病気の人だけではなく介護をする側の助けにもなることを痛感しました。看護師やヘルパーの方も、病室に入ってくると「良い香りですね」と笑顔になるのです。医療の分野にも少しずつアロマテラピーが入っていくことを願います。

 父は、亡くなる日に初めて私にしんどいと言い、その日の夜遅く弟夫婦に見守られながら天国に旅立ちました。母が亡くなって4年がたちましたが、食器棚を開けても、洋服ダンスを開けても母の匂いがすると言って涙ぐんでいた父。母の元に行けて良かったね。父が亡くなってあらためてその偉大さに気付かされ、父の姿から香りを通した母への愛を学びました。皆さんにとって、心震える香りの記憶は何ですか?

 www.arbrearoma.com

 (あいかみ・ゆり、大阪市中央区)