澪標 ―みおつくし―

訪問歯科診療について

岩住征紀
歯科医
2017年7月7日

 「食べることは、生きること」、そう実感したことがありました。2年前に義母が急に食欲不振に陥り検査したところ、消化器系に問題があることが分かりました。医師の勧めですぐ入院し、手術をうけることとなりました。術後は絶食で点滴のみで栄養補給しており、食事は約1週間後より重湯から始まりました。

 数日たつとその内容は三分粥、五分粥、軟飯となっていきました。手術前は食べ物を全く受け付けず、どんどん体が弱っていたのに病院食を「おいしい。おいしい」と食べられるようになり、「軟飯でなく普通の白いご飯が食べたい」とまで口にしました。

 すると、体力回復に合わせて目には力が漲(みなぎ)り、声にも張りが出て看護師さん相手に冗談を言って笑っている姿を見ると、執刀してくれた先生のおかげと思いながらも、人間の生命力の強さ・神秘性に驚きました。また、担当看護師さんの「口から食べられるようになったら元気になる」と実感のこもった一言にとても説得力を感じました。

 その入院期間中、歯科医としての私の出番も度々ありました。口腔(こうくう)ケアと入れ歯の調整です。術後歯磨きが自力でできない時期、歯に歯垢がビッシリ付着し乾燥状態だったため話すのもつらそうでした。スポンジブラシ・ガーゼで汚れをふき取り、保湿ジェルで乾燥予防をしました。

 さて、歯科医師になり今年で20年になります。この20年の治療技術や機器の進歩は目覚ましく、またその速さも加速しながら進んでいると実感します。また高齢化社会となり「寝たきりあるいは要介護状態」となり通院できない方への訪問診療のニーズが高くなっていることです。

 しかし、訪問診療を必要とする患者さんの数に対して、歯科医師数はかなり不足しているというのが実態のようです。この実態の要因は歯科医側の問題として、「外来診療時間との調整が必要である」「必要機材がそろっていない」そして「訪問診療の経験がない」という事が理由だそうです。これら問題点はわれわれ歯科医師側にとって改善が迫られています。

 また患者側の問題として「本人・家族が口腔ケアの重要性や食べる機能の重要性の意識が低い」という事。それと「訪問歯科診療の申込窓口がどこか分からない」という声もあります。しかし冒頭記載したように、口の中を奇麗にサッパリしておくことは前向きな気持ちにつながり、口内細菌を減らすことは誤嚥(ごえん)性肺炎予防になります(胃ろうの方にも当然当てはまる事です)。また口からしっかり食べて栄養吸収することが、体の免疫力の向上・体力増進につながります。

 では、申し込みについてですが、現在、医師、薬剤師、理学療法士、看護師、歯科医師など多職種の人たちの連携により、地域住民の健康を守ろうという動きが活発になっています。もし読者の中に「訪問歯科医に来てほしい」方がいれば、かかりつけ、あるいは最寄りの歯科医院、地元歯科医師会、かかりつけ医師やケアマネジャーに気軽に相談されることをお勧めします。

 (いわずみ・ゆきのり、大阪府吹田市)