澪標 ―みおつくし―

書作品創作のヒント

上平 梅径
ライブ書道家・青霄書法会主宰
2017年10月20日
『街中奇跡』(右上)、『鰯雲』(右下)、『昇天』(中央)、『虹舟』(左)

 2011年の中国上海より始まった海外ツアーの中で、スタンディングライブ書道やワークショップを通じて多くの方々に書の素晴らしさや楽しさをお伝えする事をしていますが、海外の文化や建築物、そして人柄などを知ることで自らの作品創作にも大変プラスになっています。

 かねて、私は同一の文字を追及して創り上げていくタイプではないのですが、唯一書き続けている文字があります。それは『虹舟』という2文字です。最初は78センチ×180センチの用紙に横書きに並べて濃墨で揮毫(きごう)、そして次は青墨で挑戦しました。しかし納得のいく作品の完成はかないませんでした。

 そんな折、12年に訪れたシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズホテルを眺望した時、な・な・なんと…細長い舟がホテルのてっぺんに乗っているではないですか。その天空の舟から少し離れた場所では、マーライオンの口から噴き出る水に太陽の光が差し込み、ほのかな7色のアーチを描いていました。書作品創作のヒントはこんなところにあるものなのですね…。

 それを見た瞬間、虹の上に細い舟を乗せた形の構図で『虹舟』という文字を書いてみようと思い立ったのでした。といいますのも、以前わが師匠が「電車に乗ると、いつも向かいの窓ガラスの四角い世界を眺め、自らが書こうとする文字をどのように収めるかを常に考えているよ…」と申しておりました。この言葉が頭の片隅に残っていたからだと思います。書作品を創作するヒントはこんな旅先の風景の中にもあるものだと実感いたしました。

 同じく『昇天』も14年のヨーロッパツアーでスイスの大聖堂を訪れた時に、国こそ違いますがフランダースの犬の最終話がふと頭によみがえってきました。主人公のネロが憧れのルーベンスの絵の前で愛犬のパトラッシュとともに天に召されてしまうというあの名場面です。何とか今、浮かんだこのイメージを書作品にできないものか…と日本に持ち帰り悪戦苦闘しました。常識的に考えると邪道である文字の重なりは、どうしようもない運命へのあがきを自分なりに表現した結果です。

 モンマルトルの丘からは、市内が一望できました。白を基調にした高さの違う建物が立ち並び、その美しさはまさに奇跡。この旅であらためて感じたもう一つの大きなことは世界の空と雲の美しさ。でも、日本の空にはもっともっと美しい情景がある…高く澄んだ秋の空に広がる『鰯(いわし)雲』…。

 作品を言葉で説明するのはいかがなものか…というご意見も多々あるかと思いますが、書作品を身近に楽しむ一つの手段としてご理解いただければと思っております。

 (うえひら・ばいけい、大阪市中央区)