澪標 ―みおつくし―

私の歯科医としてのホンネ

岩住 征紀
歯科医
2017年12月29日

 忘れられない症例があります。5年前に「痛くてかめない」と言って来た患者さんです。前の歯科医院で「根の先にウミがたまっているので抜きましょう」と言われたそうです。

 しかし、その患者さんは「抜かずに治してほしい!」との要望でした。レントゲン写真や口腔(こうくう)内の状況から「難しい歯やなぁ」とは思いましたが、チャレンジしました。治療期間は長くかかりましたが、問題の症状は消えて歯にかぶせをして治療は終了しました。他院では「抜歯」と言われた難しい症例だっただけに、「会心の出来」という手応えで終わりました。

 それから数年たち、つい先日参加した学会会場である先生が「これ、あまりいい話ではないのだけど…」と前置きして、パソコンを開いてレントゲンと口腔内の写真を見せてくれました。そうです。5年前に私が治療した患者さんの写真でした。教えてくれた先生は、「根の治療」のエキスパートとして、われわれ歯科医にもよく講演をされる歯科界でもとても有名な先生です。

 私もその先生の講演会にはよく参加し、個人的に症例相談にのってもらうこともあります。どうやら、その患者さんは私の治療後数年経過して、同じ症状が再発し、ネット検索して今の先生に治療をお願いされたそうです。その際「吹田のいわずみ歯科で治療してもらった」と話していたことで私が知ることとなりました。

 パソコン画面を見ながら「CTも撮影したけど先生が治療した部分には何も問題なく、僕も治療しているけど症状が消えない」とのことでした。「なんで治らないのかわからへんねん」ともおっしゃっていました。

 このことで、勤務医時代にお世話になった院長先生に言われたことを思い出しました。「治療に絶対は無い」という事。「結果がすべてである」という事。「自分の治療に満足してはいけない」という事です。

 歯科医になって20年がたちました。これまで研修会・学会等で知識や技術を身に着け、いろいろな失敗や経験を重ねていくなかで、「この方法なら大丈夫」という経験則に基づいた技術の蓄積も含めて、今の自分があります。そのうえで、患者さんに対して「自分は最後のとりで」という覚悟を持ち、その「治療がうまくいった」と思っても、数年後予想外の結果が出ることはゼロにはならないというのが実情です。

 そう考えると、歯科医の仕事は常に自分への「反省と挑戦」の繰り返しが必要なのかもしれません。それだけに新しい気づきや、できなかったことができた時の達成感は格別なものがあります。それを楽しみに治療をしているようなものだと、最近感じています。

 (いわずみ・ゆきのり、大阪府吹田市)