澪標 ―みおつくし―

情報はお金で買えない

ダリア・アナビアン
ペルシャ文化の語り部
2018年12月7日

 聖書に描かれている乳と蜜が流れるイスラエルが建国して今年で70歳の誕生日を迎えました。イスラエルは若くて古い歴史を持っています。バビロニア時代からヘブライ人が使ってきたユダヤ暦で今年5778年になります。

 私は年に3回お正月を祝います。1月1日は日本の元旦。3月21日はペルシャの拝火教の太陽暦による元旦。10月はユダヤの陰暦によるイスラエルのお正月。

 秋は果物が実る季節なのでイスラエルではお正月を祝います。スイートな年になるようにと願いを込めてリンゴを蜂蜜につけます。日本のお節料理の様に、それぞれに意味のある料理を一つ一つお祈りしながら食べていきます。今年は懐にたくさんお金が入るようにと豆、よい種がいっぱい実るようにとザクロ、人生の苦みが消えるようにとニラ。日本では出世魚として鰤(ぶり)を食べますが、魚は頭がいつも前を向いているので、ユダヤ人は人生を前向きに歩んでいけるようにと祈ります。最近の日本で見るようにお節料理をコンビニや電気屋さんで買うのではなく、イスラエルでは家で心を込めて一品一品を作っています。

 スイートなお正月が終わると10日後に断食の日が巡ってきます。イスラム教の1カ月も続くラマダンとは違って、ユダヤ教では1日の断食です。国の法律で、この日は24時間、車、バス、タクシーが走ることは禁じられ、仕事をすると罰金を払わされます。この日は、鳥のさえずり、風の音、子どもの笑い声がよく聞こえ、日常と違う世界が広がります。昭和の時代の日本では、デパートや工場など、ほぼすべての店が閉まっていたように、テルアビブの風景は静寂に包まれ、道路は子どもが主人公になっています。

 次に巡ってくる祭りでは、果物や全粒粉など秋の農作物の収穫に感謝して野外で食べます。その次は聖書祭。聖書の1ページ目から読み始めて1年53週かけて最後のページをまき終わって、その聖書、トーラの巻紙(人生のトラの巻)をみこしのように担ぎ、掛け声とともに道路で足を踏み鳴らして踊ります。ロック音楽をかけて僧侶もヒップホップします。

 秋は祭りの連続で、もうこれで祭りはこりごりだとみんなが言い出します。商売も仕事も止まって、料理とパーティーの準備ばかりでくたびれます。宴会の後の掃除も大変です。毎晩パーティー、パーティーで、早く日常生活に戻りたいと嘆きます。秋の祭りが終わると、自分の仕事に戻ってほっとします。

 流浪の民ユダヤ人は、旅行先でもユダヤ教会を探して訪れます。それは祭りや安息日の祈りのためだけではなく、その土地に住むユダヤ人たちと交流するためです。ヘブライ語でユダヤ教会は「ベイト・ハ・クネセット」と言います。意味は人に出会う家で、神社にお参りするようなものです。

 ユダヤ人は「エルサレムを忘れる者は右腕を忘れるのと同じこと」と2千年間言い続けてきました。ローマ帝国でエルサレムの神殿(神社)が破壊され、国を失い、世界中に散らばり、国を持たなくてもユダヤの伝統、言語、教会を守って生き延びてきた唯一の民族です。海外旅行や出張の際、教会を探し礼拝に行くと即ファミリーのようにつながり、現地のお勧めのレストランから政治の話題までが飛び交い、生の情報が伝達されるグローバルネットワークが出来上がっていくのです。

 「ペンは剣より強し」と言われてきましたが「ペンはお金より弱し」なので、お金によって正しくない情報やプロパガンダが世界中に拡散され、特にイスラエルに関する情報は極端に曲げられていることが多いのです。しかし、剣ほど強いお金も、明かされた真実の情報には負けるのです。ユダヤ人のサバイバルの秘訣(ひけつ)は、真実の情報をどれだけたくさん収集分析できるかです。

 ユダヤ教会は、ユーモアの舞台にもなっています。笑いのなかにこそ真実が隠されているからです。関西を訪れるユダヤ人観光客は安息日(金曜の日没〜土曜の日没まで)に神戸の関西ユダヤ教会に集まってきます。ラビ(僧侶)は、「ワインで祈りの乾杯をしますから、相談ごとがあれば今のうちですよ。この後私は思いっ切り酔いますからね」と大きなポケットにワインの瓶を入れて愉快に歓待します。(神戸市中央区)