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| 奉公人が別家する際に主家に差し出した誓約書「別宅人存念書之事」 |
大阪ものの小説には商人の成功譚(たん)がある。山崎豊子の「しぶちん」もその一つだ。主人公の山田万治郎は東横堀で材木問屋を営み、吝嗇(りんしょく)で通っている。19歳で伊勢から大阪へ出て、材木問屋に丁稚(でっち)に入った。駄賃の出ない番頭や手代の使い走りにも知恵を働かせて、わざわざ遠い方のたばこ屋へ足を運んで顔を売り、まとめ買いで値切ってへそくりをためる。そんな調子で、手代になっても抜け目なく商売をこなして主家の信頼をつかみ、29歳で通い手代となる。
この万治郎のように住み込みを解かれ、通い奉公を許された商家の雇い人を「別宅人」と称し、自分の家を持って別家する際に主家に差し出した誓約書が「別宅人存念書」である。
主家は奉公人が独立する際には、元手になる家督銀を準備する。これは銀10貫目から20貫目ほどにもなる(「大阪商業史資料」『浪速叢書 第九』)。仮に1匁(もんめ)を4千円とすれば、4千万円から8千万円の金額になる。主家は奉公人が別宅する際にこれを与える代わりに、別宅後の失敗によって家督銀の損失を招いたり、公訴に及ぶようなことがないように、存念書によってその所存を確認しておくのである。
今回紹介するのは、以前にも紹介した和泉町の鴻池新十郎家の史料の一つである。この存念書をまとめた幸四郎は鴻池新十郎家の老分で、後継者の範とすべく自分の存念書を残し、その後の取り扱いを定めた。
そこには、開業の意志はなく日勤をすること▽家督銀は先代の分もあわせて預かりその利息で世帯をしていくこと▽この銀高は減少させず年々収支算用を御覧に入れること▽不心得者には名付け銀などの譲り渡しはお預けにし、家名相続のため奉公人から余人を見立てて譲り渡してもらうこと▽万が一名付け銀の損失を招いても主家には迷惑を掛けないこと−などの誓約が認められている。
この文面に表れるように、別宅人は独立後も主従の義理を守った。それ故に、主人が死亡しても別家の遺族は主家の経済的保護を受けることができた。しかしその一方で、別宅人は主家からその家政までも支配を受け、子女の結婚まで主家の指示に従わなければならなかった。
さて、主従関係の固い絆によって支えられたこのような濃密な時代の是非を、皆さまはどう考えますか。
(大阪商業大学商業史博物館学芸員・池田治司)










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