来阪catch

大阪弁で成立する愛

映画「彼女がその名を知らない鳥たち」
監督 白石 和彌
2017年10月28日

蒼井が嫌な30女を

「蒼井優さんら俳優の熱量が高かった」と話す白石和彌監督=大阪市福島区の朝日放送
蒼井優(右)と阿部サダヲ=(C)2017「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

 大阪府出身の沼田まほかるの同名原作を「凶悪」の白石和彌監督(42)が映画化した「彼女がその名を知らない鳥たち」(クロックワークス配給)が28日からシネ・リーブル梅田で公開される。主演の蒼井優が「嫌な30女に挑戦してくれて、大阪弁で成立する愛を好演してくれた」という白石監督に話を聞いた。

 白石監督といえば、故若松孝二監督の弟子に当たり、長編2作目「凶悪」(2013年)で日本アカデミー優秀作品賞・脚本賞、新藤兼人賞金賞など高い評価を受けたのも記憶に新しい。その後の「日本で一番悪い奴ら」(16年)などアウトロー路線の異色派である。

 「これまで実録の犯罪ものを映画にしてきたが、今回は原作の小説にほれ込んで取り組んだので今までとは感じが違うものがあった。仏像の仏師がそれを彫るときの心境に似ていて、木くずを払いながら木の中にいる仏を出している感じ。主人公の蒼井さんが演じた十和子の生き方に今の時代の愛を重ねながら撮った」

 十和子は大阪下町のアパートで15歳年上の陣治(阿部サダヲ)と同居し、毎日自堕落に暮らしている。陣治の収入で生活しているのに、汚い身なりで工場勤めをする彼を見下しており、自分はクレーマーで買い物をしては「不良品だ」とケチをつける日々だ。時計の修理で売り場主任の水島(松坂桃李)に謝罪させるだけでなく、彼を誘惑してホテルにしけ込む女でもある。

 「原作に出てくる人間はみんなどこかうさんくさく、嫌みに満ちている。彼らはそれぞれ相手を傷付けながら生きている。十和子のみだらで勝手な生き方や、水島の男として薄い生理感覚にはヘドが出そうだが、大阪弁でズカズカと街を歩く十和子にシンパシーを感じるのはなぜだろう」

 それは十和子の生き方に「無償の愛が隠されているからではないか」と分析する。彼女は別に好きな男がいて、その黒崎(竹野内豊)にだまされながら、尽くしてしまうダメ女でもあり、それを知る同居人の陣治が彼女にバカにされながら離れないのはそれを『純』ととらえるからではないか」

 蒼井の熱演も見ものだ。「熱量が高かった。僕は男だからついていけないところもあった。この世のものではないといった美しい表情をするときがあって、時に平気で不細工な顔をする。それを使い分ける動物的な女優で、その根っこに母性がひそんでいる。それは平たんではない人生を歩いて来られた原作者にある資質とつながっているような気がする」

 蒼井、阿部のコンビで映画化するのに「スケジュールを空けてもらうために2年待った。待ってよかった」。松坂、竹野内のクズ男もいいし、何よりも大阪ロケがリアルに捉えられているのがいい結果につながった。「蒼井さんのアパートは城東区の第二寝屋川に面して建っており、アーケードの淡路商店街、阿倍野、天満などでも撮影。大阪弁がなければ成立しない愛の物語になった」

 次回作は役所広司主演の「孤狼の血」(東映、来春公開)。