来阪catch

地方の若者3兄弟の物語

映画「ビジランテ」
監督 入江 悠
2017年12月2日

ノワール世界のように

「もう一度自分の原点に戻った」と話す入江悠監督=大阪市西区の新通ビル
大森南朋(手前)と桐谷健太=(C)2017「ビジランテ」製作委員会

 自主映画でデビューした入江悠監督(38)がもう一度原点に戻って地元の埼玉県深谷市で撮った新作「ビジランテ」(東京テアトル配給)が9日から大阪のテアトル梅田ほかで公開される。「地方の3兄弟の物語を、フィルム・ノワールのタッチで撮った」という入江監督に話を聞いた。

 日大芸術学部映画学科在籍時に撮った「ジャポニカ・ウイルス」(2006年)で映画監督デビュー。埼玉の田舎町で生きるラッパーのホロ苦い青春劇「SRサイタマノラッパー」(09年)が国内外で高い評価を受け、日本映画監督協会新人賞を受賞。以後、松竹「日々ロック」、東宝「22年目の告白−私が殺人犯です−」などメジャーに進出した業界のホープである。

 「監督になって10年になるが、何か胸にムズムズするものがあって、もう一度原点に戻ろうと思った。そこで3部作『SRサイタマー』シリーズを撮った僕の地元である埼玉県深谷市で、ゼロから発想して、今の地方都市に生きる若者3兄弟の物語を作った」

 「カラマーゾフの兄弟」のように3兄弟の物語は多い。「オイディプスやシェークスピアの作品なども米国の『マッドマックス』などに影響を与えているし、僕もその辺の古典に帰り物語をそぎ落としフィルム・ノワールのようなタッチで描いてみようと思った」

 3兄弟は市会議員をやっていた横暴な父親(菅田俊)に反抗し、ある日ナイフで彼を殺そうとする。それは未遂に終わるが、長男の一郎(大森南朋)は家を飛び出してしまう。「25年後の田舎町でその後、再会する3兄弟の話になって映画は展開する。撮影途中、資金不足で製作中止の憂き目にあったが、何とか再開できた。撮影中に泣いたのは、この映画が初めてだった」

 父が死に、家は廃屋のようになり、そこへ長男の一郎が女連れで帰って来て、市会議員になり妻(篠田麻里子)と別の家で暮らしている次男の二郎(鈴木浩介)、近くの風俗店で雇われ店長をしている三男の三郎(桐谷健太)と対面する。父の遺産である廃屋と近くの土地にアウトレットモール建設が持ち上がっており、3兄弟は身内の問題だけでなく、町の権力者や暴力団などと対立することになっていく。

 「10年前、脚本を書くときに取材した素材は『SR』で使っているが、そのとき使えなかった話と、新しく取材して、今回の脚本を書いた。町の事情も以前と変わっているが、今の日本の地方都市が抱えている問題と重なっており、推理作家の松本清張さんが物語は『足で書け』といわれたことがよく分かった」

 俳優の大森、鈴木、桐谷が3兄弟をクールに演じ、篠田が女優開眼している。「発散するのではなく、内にこもる芝居が多く、皆さん抑えた芝居を心がけてくれてとてもよかった。今までで一番過酷な撮影だったが、そのかわり達成感は大きいものがあった」