来阪catch

社会変革をテーマに

映画 「月夜釜合戦」
監督 佐藤 零郎
2017年12月23日

まちのエネルギーを喜劇で

「ここにいるぞという声を上げたかった」と話す佐藤零郎監督=大阪・九条のシネ・ヌーヴォ
映画「月夜釜合戦」の太田直里(左)

 大阪の釜ケ崎を舞台にした人情喜劇「月夜釜合戦」(同製作委員会配給)が23日から大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開される。京都出身でドキュメンタリー畑の佐藤零郎監督(36)が16ミリフィルムで撮った自主製作の劇映画。「社会変革をテーマに、まちのエネルギーを喜劇で描いた」という佐藤監督に話を聞いた。

 佐藤監督は京都生まれで若いとき、太秦にある東映俳優研究所に入って俳優を志した。「弟が京都造形大に入ったので、僕は僕で負けられんと思った。とにかく何かを『表現したい』という気持ちが強かった」と述懐。キャリアは映画「天狗の葉」(2008年)に出演して本格的なスタートを切る。

 その後ドキュメンタリー作品との出会いがあって、同路線の撮影、編集に関わった後に「大阪の長居公園テント村の野宿生活者たちが強制的に立ち退きにあうという事件に遭遇した。それを記録したのが僕の監督第1作『長居青春酔夢歌』だった。その折に関係者に釜ケ崎のまちの話をいろいろ聞いて興味を覚え、次回作にしたいと思い脚本を書いたのが『月釜』だった」

 今度は初めての劇映画で「脚本作りと同時にスタッフ、俳優など準備が大変で、プロデューサーの梶井洋志さんと組んで整えるのに時間がかかった。俳優の川瀬陽太さん、渋川清彦さんらが出演してくれることになり、前作で付き合ってくれた地元の人たちも集まってくれて、2014年5月から半年以上かけて撮りあげた」

 撮影途中随所に問題があり、また作業のポストプロダクションでも時間がかかり、ようやく今年3月に完成。たどり着くのに5年近くかかった。「一時落ち込んだが、今は達成感でいっぱい」。映画は冒頭、通称「釜ケ崎」(西成区)のまちを、自転車に乗った若い女性(太田直里)が映し出される。彼女と家の周辺の住民が主人公で、「釜が盗まれる」という事件が発生しみんなが巻き込まれるという展開になる。

 「釜というのは釜ケ崎のそれと、ごはんを炊くお釜、つまり釜ケ崎の伝説になっている労働者に提供するごはんを炊くお釜のことを指している。脚本の題材は落語の『釜泥』(お釜泥棒の話)を参考にし、タイトルにも使った。まちのお釜がなくなることと、近年まちが徐々に変化している状況が重なった」

 物がなくなると、それは貴重になり値段が上がる。土地のやくざの組が大事にしていたお釜がなくなって大慌てし、二代目(渋川)と情報屋(川瀬)は地元住民と一緒にお釜探しに明け暮れる。時代劇「丹下左膳」の「こけ猿の壺」騒動に似ているが山中貞雄の傑作映画のタッチも取り入れ、「釜ケ崎のフィクションに近いものにしたかった」。

 「社会変革」とは何かという問いもある。「この場所で、自分らは生きている」という訴えもある。「大阪だけでなく、今は全国的なテーマでもある」

 シネ・ヌーヴォは29日まで。その後神戸・元町映画館、京都・みなみ会館、神戸映画資料館で上映される。