来阪catch

後半は自分を出して

映画「ニッポン国VS泉南石綿村」
監督 原 一男
2018年2月3日

8年かけ執念で闘争追う

「映画が応援歌になれば…」と話す原一男監督=大阪・十三の第七藝術劇場
「ニッポン国VS泉南石綿村」の一場面=(C)疾走プロダクション

 「ゆきゆきて、神軍」「全身小説家」などで知られる映画監督の原一男(73)が、泉南アスベスト国家賠償訴訟裁判の記録を追いかけたドキュメンタリー映画「ニッポン国VS泉南石綿村」(疾走プロダクション配給)が3〜9日、イオンシネマりんくう泉南で地元先行公開される。「8年かけた執念の記録」という原監督に話を聞いた。

 石綿(アスベスト)は耐火、耐熱性に優れ安価に生産できるために「奇跡の鉱物」といわれた。しかしこれを大量に吸い込むと長年潜伏の後、中皮腫や肺がんなどを発症することが判明して生産中止になった。2006年に泉南地区の石綿工場の労働者やその家族が健康被害を被ったのは対策を怠った国の責任として損害賠償を求めて提訴した。

 これまで原監督は昭和天皇パチンコ玉狙撃事件の奥崎謙三を描いた「ゆきゆきて、神軍」(1987年)、戦後文学の旗手といわれた井上光晴の晩年を追った「全身小説家」(94年)などで高い評価を受けた。「それらはみんな表現者で、とんがった人たちだった。僕自身がとんがって彼らの行動を追った」

 今回裁判の記録を撮ることになり、「自分が今までやってきた方法論では通用しないことが分かった」という。「裁判を訴えた人たちは普通の生活者で、僕がこれまで関わってきた表現者ではない。アスベスト事件に巻き込まれて被害を受けて戦う普通の人たちの怒りに共感しながらも、先が見えず、8年があっという間に過ぎた」

 映画は3時間35分の長尺になった。「撮影は最初の地方裁判所の原告勝訴から始まり、控訴を受けて高等裁判所で敗訴するまでの6年で終わろう思った。とにかく闘争の時間が長いのと、原告と弁護団のやっていることがじれったい。原告の人もアスベスト被害で亡くなっていく。僕は黙っておられずに、支援団体・市民の会の柚岡一偵さんに不満をぶつけた」

 映画の前半は原告の被害者たちに苦しみなどをひたすら聞いた。風呂に入ると肺が苦しくなるという主婦は「撮影してもいいよ」と風呂場に案内した。「いや、もう泣きそうになった。被害者の苦しむ姿は撮るまいと思っていたが、そのシーンですべてが分かってもらえると思った」

 映画の後半はひたすら裏方で原告に献身的な弁護団が、アクティブな行動に出る。高裁で勝訴はしても「家族曝露」や「近隣曝露」などの被害者は保障の対象から外された。韓国にいる日本と同じ被害者を訪ね支援団体と交流の場を持ったりもする。泉南の労働者には植民地時代に仕事を求めて渡って来た在日朝鮮人も多かった。

 高裁の勝訴後、国に対し最高裁の上告を断念するよう訴える運動方針で、柚岡さんが首相官邸の安倍首相に直訴する「建白書」を届けると宣言。「僕はひそかに拳を握った。もっと怒ってもいいんだと思った」。最高裁の判決は勝訴だった。それでも「まだ終わっていない…」と柚岡さん。闘争の8年間に21人の被害者が亡くなった。

 ※一般公開は3月31日から、九条のシネ・ヌーヴォ、十三の第七藝術劇場