来阪catch

超然としたディーンさん

映画「海を駆ける」
監督 深田 晃司
2018年5月26日

人間は自然の一部

「異文化の深さと人間の豊かさを感じてほしい」と話す深田晃司監督=大阪市内
ディーン・フジオカ=(C)2018「海を駆ける」製作委員会

 2年前の前作「淵に立つ」でカンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞を受賞した深田晃司監督(37)の新作「海を駆ける」(東京テアトル配給)が今日から、なんばパークスシネマ、テアトル梅田で公開される。インドネシアでオールロケした作品で主演のディーン・フジオカ(37)に「人間は自然の一部として、超然と演じてもらった」という深田監督に話を聞いた。

 深田監督は、東京生まれで映画美学校監督コース卒業後、平田オリザ主宰の劇団青年団の演出部へ。「映画至上主義」を掲げ、外国人労働者と日本人の共生を描いた映画「歓待」(2010年)が内外で高く評価され、「ほとりの朔子」「さようなら」などの秀作を経て、「淵に立つ」でカンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞受賞につながった。

 新作は2011年にインドネシアのバンダ・アチェで行われた震災復興リサーチのシンポジウムに参加したことで企画が立ち上がった。「港町で人口25万人のアチェ州の州都。2004年のスマトラ島沖大震災の津波被害で5万人が亡くなった。東日本大震災直後にここへ来て、記憶が重なり、それをモチーフにした映画を作りたいと思った」

 映画はまだ震災の爪跡が残るアチェの街に移住しNPO法人で災害復興の仕事をしている女性の貴子(鶴田真由)と、息子のタカシ(太賀)が主人公。日本からやって来る親戚のサチコ(阿部純子)と現地の若者たち、そして海岸に流れ着いた謎の男ラウ(ディーン・フジオカ)との不思議な交流を描いている。

 「ディーンさんは福島生まれで、インドネシアでアルバム制作を行った経験があり、主人公のラウという男にイメージが重なったのでぜひとお願いし、出演がかなった。彼は言葉もほとんどしゃべらず、街の人たちと一緒に生活するが、そこの人々の価値観をひっくり返していく」

 街には震災のモニュメントとして津波に流されてきた船がビルの上に残ったままになっている。「日本でも同じような光景があったが、辛い記憶がよみがえるというので撤去された。アチェと福島では震災の受け取り方が違う。僕自身一番思ったのは、スマトラ島沖大震災のとき、当時の自分はなぜこの甚大な被害を深刻に受け止めなかったのかということだった」

 ディーン演じるラウという男は不思議な力を持っており、人々に「恵み」と「災い」をもたらす。それは因果的なものではなく「原因と結果」「善悪」とも関係がない。「なぜ人間は生き延び、他の人は死んだのか? その理由を求めがちだけど、災いをもたらした自然には、そんな理由は最初からないのではないかと思った」

 インドネシアと日本のスタッフによる合作になった。「とてもスムーズに仕事ができた。人間は自然の一部。超然としたディーンさんのラウという存在に、生きるという普遍的なテーマを重ねた」。今年は日本とインドネシア国交樹立60周年の節目を迎えている。