来阪catch

それでも諦めないこと

映画「泣き虫しょったんの奇跡」
監督 豊田 利晃
2018年9月15日

瀬川五段に自分を重ねて

「挫折したトラウマが僕にあったので向き合うのがしんどかったけど…」と話す豊田利晃監督=大阪市内
松田龍平(C)2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会

 プロ棋士の瀬川晶司五段(48)の同名原作を映画化した「泣き虫しょったんの奇跡」(東京テアトル配給)がTOHOシネマズ梅田・同なんばで上映されている。自らプロ棋士を目指したことがある豊田利晃監督(49)に「瀬川さんに自分を重ねて、諦めずもう一度挑戦することをテーマに撮った」という話を聞いた。

 豊田監督は21歳の時に将棋の勝負師を主人公にした阪本順治監督の「王手」(1991年)の脚本で映画界にデビュー。大阪を舞台にした映画で同郷の阪本監督に声をかけられてこの世界に入った。当人は9歳の時に関西の日本将棋連盟のプロ棋士養成機関「奨励会」に入ってそれを目指した経緯がある。

 「奨励会は17歳で辞めて挫折した。映画の道に入って、いつか将棋の映画は撮るかも知れないが、二度と将棋はしないと思っていた。それがある時プロデューサーから瀬川五段が書かれた原作を読めと言われた。瀬川さんは一度奨励会を辞めてもう一度プロに挑戦して成功した人。彼と同じ年代なのですごいと思った」

 最初に脚本を書いたのは2011年で、映画化まで時間を要した。「藤井聡太さんという人気者が出てきて、将棋の映画がやりやすくなってありがたかった。それでも昔は『王将』があり、近年でも『聖の青春』などがあり、映画の一ジャンルになっている。後者の主人公、村山聖さん(故人)も同時代で、彼の映画を見たい、撮りたいと思ったことがあった」

 「泣き虫−」は、中学生の時、東京の奨励会に入りプロ棋士を目指した瀬川五段(松田龍平)が、規則で26歳までに四段を取得できなかったので期限切りで奨励会を退会させられ、一度はサラリーマンになるが、例のない再挑戦に挑み、史上初の成功を収めるという実話。「その時、瀬川さんは35歳で、今の龍平君も同じ年齢。思いを託せると思った」

 瀬川五段は父親が亡くなった時、「自分は本当に全力で挑戦したのか」と泣く。そして、それまでなかったプロ再挑戦の道を切り開く。もう一度のない世界での再挑戦。「僕を含め奨励会を辞めた人たちにこの映画を見ていただきたい」

 将棋の対局シーンが何度もある。「その辺を僕なりに体験したことと、瀬川さんの直接指導を仰ぎながら撮影した。カメラでリズムを取るというか、アクション映画の感覚でその対局シーンを撮った。龍平君が役に入り込んで熱演し、彼の本当の友人である野田洋次郎さんに将棋仲間の幼なじみを演じてもらったほか、たくさんの俳優さんに出ていただいた」

 小学校時代の優しい女教師に松たか子、奨励会仲間に早乙女太一、妻夫木聡、染谷将太、新井浩文。そして両親に國村隼、美保純、先輩に小林薫、イッセー尾形。ほかに石橋静河、藤原竜也。豊田監督は監督生活20周年で10本目の作品になる。