来阪catch

家族の死を乗り越え

映画「鈴木家の嘘」
監督 野尻克己 出演 木竜麻生
2018年11月17日

悲しみを体感しながら

「悲しいけど前向きに楽しんでもらえる作品に…」と話す野尻克己監督(左)と木竜麻生=大阪市内のホテル
「鈴木家の嘘」の一場面(C)松竹ブロードキャスティング

 家族の死をめぐって立ち止まりながら家族が再生していく姿を描いた「鈴木家の嘘」(松竹ブロードキャスティング/ビターズ・エンド配給)がなんばパークスシネマとシネ・リーブル梅田で上映されている。「実体験をどう乗り越えるかを描いた」という野尻克己監督(43)と、「妹の悲しみを体感しながら」という女優の木竜麻生(24)に話を聞いた。

 作家主義と俳優発掘を製作の柱にしている松竹ブロードキャスティングの第6弾。沖田修一監督の「海を見にいく」、橋口亮輔監督の「恋人たち」などの秀作に続く作品で、野尻監督は橋口監督などの助監督に付いておりこれがデビュー作。岸部一徳、原日出子が両親役で、兄に加瀬亮、妹に木竜が扮(ふん)している。

 「デビュー作で撮りたい題材はあったが、約10年前に実際に体験した兄の死について映画にするのが先だと思って、ようやく実現した。なぜ兄は死んだのか。それはいまだに分かっておらず、もんもんとしていたし、それは同時になぜ映画を撮るのかということと重ねて、分からないことを一緒に考えながら撮ろうという気持ちだった」

 両親はどちらも「自分たちが息子の気持ちを理解することができなかった」と後悔し、妹もまた、引きこもりになった兄に「生きる意味がないと思うなら死んだら!」という言葉を投げつけたことを忘れていない。木竜は「撮影前に脚本を読んでワークショップに参加し、妹の気持ちを思うと辛くて涙がとまらなかった。彼女の気持ちを考えて、それに自分の思いを重ねていった」。

 木竜は映画「まほろ駅前狂詩曲」(大森立嗣監督)に1シーンだけ出演しており、その当時の助監督が野尻だった。「その時彼女は19歳だったが、今回ワークショップで会って女優っぽくなっていると思ったし、目がキラキラしていて、妹役にぴったりだった。映画の内容は重たいものだけど、彼女の笑顔があれば和らぐし、悲劇を喜劇で描くという手法にかなった」

 木竜は「まほろ駅前−」の後数本映画出演があり、今年は瀬々敬久監督の「菊とギロチン」のヒロインを演じて注目を浴びた。「菊と−」では大正時代に女相撲で生きる女を演じた。「相撲を取る役はもう演じることがないと思うが、今回の妹役は高校で新体操部に入っており、その練習シーンを演じた。新体操は学生時代に経験があったのでうまく演じられた」とにっこり。

 「両親の岸部さん、原さんは脚本が気に入って乗ってくださったし、出番は少なかった加瀬さんも役を大切に演じてくださった。結局映画を撮り終え兄がなぜ死んだかは分からかったが、人間は生きていくものだ!という思いを強くした。ぶざまでもいいから、生きていけばいい。監督デビュー作でそれを実感できたのは、これからの自分の大きな力になると思う」

 ほかに大森南朋、岸本加世子らが親戚の役で出演し、喜劇タッチのシーンもあり「楽しんでもらえる作品になった」と野尻監督と木竜はほほ笑んだ。