日曜インタビュー

身の回りをコメディー的に

映画 「モヒカン故郷に帰る」
監督 沖田 修一
2016年4月10日

誰でも体験する時間

「俳優さんには自由にやってもらった」と話す沖田修一監督=大阪・福島のABCホール
松田龍平(右)と前田敦子(C)2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会

 売れない都会のロック歌手が妊娠した恋人を連れて故郷へ帰る時間を描いた「モヒカン故郷に帰る」(東京テアトル配給)がTOHOシネマズなんば、シネ・リーブル梅田で上映されている。「誰でも体験する身の回りのことをコメディー的に描いた」という沖田修一監督に話を聞いた。

■松田龍平と前田敦子

 −松田龍平の緑のモヒカン頭が面白い。

 龍平さんとは初めてだけど、売れないロック歌手というキャラクターならモヒカンだろうと思ってその格好をしてもらった。それが見事に決まって、ロックを歌うシーンも設けて歌ってもらうとこれも決まった。カッコいい。父親の松田優作さんも歌っていたし、その血をひいている。

 −カッコいいが、どこか抜けているような…。

 前作「海を見に行く」が、お年寄りが海に行く話だったので、今回は若いカップルが故郷に帰る話にした。それも演技派の龍平さんと前田敦子さんをさえないカップルにして、誰でも一度は経験するであろう故郷帰りをしてもらうことにした。都会に出て中途半端な生活をしていた2人が、そこで何を感じるだろうか。

 −瀬戸内海の小さな島がその故郷。

 小津安二郎さんの「東京物語」に出てくる島も入れて五つの島でロケ撮影した。何よりも「帰りたくなるような場所」というイメージでロケハンをして探した。そこに山があって、緑がある。ただそれだけでいい。素朴な感じで、何てことがない。1980年代のイメージだった。そこで何かあったときに体験するドラマに遭遇する話。どこにでもある身の回りのエピソードをやりたかった。

■息子と父親の確執

 −コミカル・ホーム・コメディーという感じ。

 龍平さんと敦子さん当人はすごくカッコいいのだが、この役に入るとどこか島の人間というか、ホームドラマの人になった。龍平さんのモヒカンに対して、敦子さんはだんだんおなかが大きくなっていくし、どちらも30歳前後で大人にならなければならない。そうなれば、龍平さんはそれまで確執があった父親(柄本明)との関係を、敦子さんもこれからのことを考えると義母(もたいまさこ)と仲良くしなければならない。

 −父親の柄本さんが矢沢永吉のファンというのが面白い。

 それで息子の名前を永吉にしている。彼が都会へ出て行くときに「立派な歌手になって帰って来い」という。それがモヒカン頭で帰って来たのだから、複雑ではある(笑)。それでも帰ってきたことは少なからずうれしい。敦子さんは義母が広島カープの大ファンで料理上手の女性なので気が合って、いろいろ習い事をする。

 −父親が病気で倒れてから、ドラマはちょっとややこしくなる。

 これも普通の家庭ではよくあることで、一家の人間は大慌てだし、近所の人も巻き込んでドラマが膨らんでくる。父と息子は直接愛情表現するのは苦手だから、病気が間にあるとそれがしやすくなることもあって、父親がやっていた中学の吹奏楽部の面倒を息子が見てやったりする。バンドは矢沢の歌ばかり演奏している(笑)。

 −笑いの中でリアルな芝居も。

 病気でちょっと厳しいこともあるが、父親の柄本さんの芝居が少しリアルになるし、息子も一生懸命役に立とうと頑張る。コメディーの中でリアルにやる芝居は難しいと思うが、2人はその辺を上手にやっている。娘と義母の関係も距離が近づいていくのが分かる。昔好きだった山田太一さん(脚本家)が書いたホームドラマのように、父と息子の墓参りのシーンを撮った。

■温かい生活感

 −父と息子の和解というか、しこりがとれるような気がする。

 おそらくそこから彼は一人前になっていくと思う。その辺をゆっくり見てもらいたい。俳優さんには最初から「自由にやってください」と言っていたので、皆さんが思いついたことを言ってくれて「それ面白いのでやりましょう」というケースもよくあった。それと島の人たちにも出演してもらったしアドリブのシーンも作った。「温かい生活感」が出ていたらうれしい。

 おきた・しゅういち 1977年生まれ。埼玉県出身。日大芸術学部卒業後、自主映画、テレビの脚本・演出を経て2009年「南極料理人」で商業映画デビュー。「キツツキと雨」「横道世之介」「海を見にいく」など。「横道−」でブルーリボン作品賞、主演男優賞(高良健吾)受賞。「モヒカン故郷に帰る」は大阪アジアン映画祭でクロージング上映された。