日曜インタビュー

喜びと悲しみと…

映画 「花、香る歌」
監督 イ・ジョンピル
2016年4月17日

パンソリの歌に乗せて

「ラストの結末を見て考えてほしい」と話すイ・ジョンピル監督=大阪・福島の朝日放送
「花、香る歌」のスジ=(C)2015 CJ&EM CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

 韓国の伝統芸能であるパンソリの女性初の歌い手になった娘を描いた「花、香る歌」(CJエンタテインメント配給)が23日からシネマート心斎橋で公開される。「ヒロインの喜びと悲しみを描いた。パンソリの歌に乗って恋の美しい結末を見届けてほしい」というイ・ジョンピル監督に話を聞いた。

■実話の物語

 −美しいラブストーリーになっている。

 伝統芸能のパンソリで、それまでご法度だった女性の初の歌い手になったチン・チェソンの実話の物語だ。あるパンソリの大会に行って偶然その話を聞いて、チェソンは朝鮮初のパンソリ塾を創設しそれを広めたシン・ジェヒョという師匠に巡り合いそれを習った。2人の運命的な出会いと別れを映画で描こうと思った。

 −パンソリの歌に物語がある。

 一人の唱者が物語を語っていく「独唱」と、ほかに登場人物を配役しミュージカル仕立てにする「唱劇」という二つの形態がある。これまで音楽を題材にした映画を撮っているがあまり知らなくて専門の方に教えていただいた。物語を歌と語りでつづるもので、5、6のパターンがあり、27の物語がある。映画のタイトルはその「春香歌」から付けた。

 −ヒロインのチェソンを演じたスジ(21)は歌が上手でかわいい。

 彼女は韓国のトップアイドルグループ「missA」のメインボーカルで、映画も「建築学概論」でデビューし「国民の妹」という感じで知られている人気者。もともと歌は上手だが、パンソリのために約1年間練習して映画に出てもらった。相手のジェヒョは「王になった男」などのベテラン、リュ・スンリョンで、どちらもぴったりだった。

■「涙のあとは…」

 −チェソンが少女のころ出会うシーンから泣かせる。

 たった一人の肉親の母親に死なれて妓楼(ぎろう)に預けられたチェソンが町に来たパンソリの一座と出会い、ジェヒョに「涙のあとは笑顔になれる。それがパンソリだ」と言われる。チェソンはパンソリと、ジェヒョに恋をしたのかもしれない。それからチェソンは成長し一座に再会し、何度も入門を頼みに行くが、女性はなれないと追い返される。

 −2人はどちらもハンディを背負っている。

 チェソンは女のためにパンソリをやれないことが悔しい。ジェヒョもまた身分が低いためパンソリを後援する身分が高い層の人たちから差別される。それでも、チェソンの思いは通じ、ジェヒョの隠れ弟子になり一座に入れてもらう。それは彼女の歌のうまさにひかれたのであり、同時にジェヒョの覚悟である。ひょっとしたら父親的な思いもあったかもしれない。

 −2人にとって、王朝で権力を持つ大院君(キム・ナギル)の存在が大きい。

 パンソリが好きな大院君はジェヒョを招いて親しくなり、弟子の彼女をパンソリ大会の落成宴に出させて「優勝したら歌い手として認めるが、ダメだったら2人とも処罰する」と告げる。それは好意なのか、悪意なのか。そこからはあまりしゃべれないが、皮肉にも夢をなし遂げたときに、悲劇がやってくる。

 −その前に、2人の愛の告白のシーンに泣かされる。

 修業をやり遂げジェヒョと二人きりになったとき、チェソンは「お師匠さまの桃李花になりたい」と訴える。するとジェヒョは「歌とはいわば香りだ。香らぬ花など欲しいとは思わぬ」という。これはジェヒョの作ったパンソリの短歌「桃李花歌(トリファガ)」から取っている。それは一見すれ違いに見えるだろう。

■小津映画のように

 −チェソンはその後どうしたのか。

 2人は結ばれたのだろうか。あるいは彼女は王朝の大院君のところに上がったのか。彼女の生涯の最後の行方には記録がない。悲劇的な結末のように思えるが、そうだろうか。僕は2人の結末は美しかったと思うし、その辺は映画を見る観客に委ねたいと思う。大好きな日本映画の小津安二郎監督「東京物語」のラストのように、それを考えてほしい。

 1980年韓国生まれ。2013年「全国のど自慢」(日本未公開)で監督デビュー。続いて同じく音楽を題材にした「アンサンブル」(14年、日本未公開)を経て第3作の「花、香る歌」へ。同国伝統芸能パンソリの初の女性歌い手をドラマチックに描いた。今後が期待されている若手監督の一人である。