日曜インタビュー

原作と違うラストシーン

映画 「 64 −ロクヨン−前編/後編 」
監督 瀬々 敬久
2016年5月8日

原作と違うラストシーン

「主人公と一緒に映画で生きてほしい」と話す瀬々敬久監督=大阪市北区の東宝関西支社
佐藤浩市(左)と榮倉奈々=(C)2016映画「64」製作委員会

 横山秀夫の同名ミステリーを映画化した「64−ロクヨン−前編/後編」(東宝配給)が連続公開される。佐藤浩市扮(ふん)する群馬県警の広報官を主人公にし、少女誘拐事件を扱ったもので「人間としていかに事件と犯人に立ち向かうか」を描いたという瀬々敬久監督に話を聞いた。

■天皇崩御の年

 −タイトルの昭和64年については。

 昭和64年は西暦1989年。昭和のそれは天皇崩御で7日間しかなかった。僕は当時助監督で、これからどんな映画を作ったらいいかいろいろ考えていたと思うし、その年はベルリンの壁が壊され、天安門事件が起きて、世の中が大きく変わっていくのではないかと期待したが、結局は何も起こらなかった。

 −原作はその7日間に起きた事件を描いている。

 僕が企画に入ったときは、横山原作を2部作で、2時間×2時間の4時間でまとめることが決まっていた。主人公の三上義信も佐藤浩市さんに決まっていたが、脚本はテレビで横山さんの原作を脚色して定評があった久松真一さんと僕が書くことになった。前編は警務部広報室の広報官・三上が群馬県警記者クラブで記者たちとやり合う話と、少女誘拐事件を扱っている。

 −三上の佐藤さんが出ずっぱりで、事件に関わっていく。

 佐藤さんは原作を読んで面白いけど、三上の役は回って来ないと思っていたらしい。三上は「鬼瓦のような顔」と書かれている(笑)。NHKテレビドラマ版ではピエール瀧が演じていた。佐藤さんが演じると、それは人間的なものが出せると思ったし、それに合わせて奥さん役の夏川結衣、記者クラブの瑛太、少女の父親の永瀬正敏、広報室部下の綾野剛、榮倉奈々をキャスティングした。

■実名報道で対立

 −前編は三上と記者クラブの対立が中心に描かれる。

 県警では刑事部と警務部が対立しており、記者クラブは日ごろから広報に文句ばかり言っている。警察上層部が広報に冷たいし、広報室は間に入って責められてばかりだ。ある事件で犯人の実名を隠して発表して一層突きあげを食らうが、三上が「実名報道」を原則にするから、警察庁長官の県警訪問に協力してほしいという。

 −それは少女誘拐事件が起きた64年から14年後である。

 少女誘拐事件は冒頭で描かれて、県警捜査班は犯人を逃がしただけでなく、少女を殺されるという最悪の結果を招いていた。あと1年で事件が時効になるので、長官が直々県警にゲキを飛ばしに来る訳だ。被害者の母親は傷心で亡くなり、父親はいまだ立ち直っていない。

 −三上と26人の記者たちの対決シーンが面白い。

 三上は記者たちが要求する「実名報道」を原則にすることを約束し、同時に、事件で亡くなった高齢被害者の悲惨な人生を語り、記者たちを泣かせ1本取るところが佐藤さんの芝居場。それをしゃべるのに9分かかるが、佐藤さんが長回しのワンカットで撮ってほしいという。その意気込みに乗って、3台のカメラでそれを撮った。初めて黒澤明監督の気持ちが分かった。

 −黒澤監督のカメラ複数撮影は有名だ。

 俳優がこう演じたいということと、監督がこう撮りたいというのが一致するのが一番いい。脚本ではここで三上は涙を見せながら記者の説得をするようになっているが、それもちょっとウエット過ぎると、泣きの寸止めというか、ウルッときているが涙は見せない表情で佐藤さんは演じてくれた。「カット」のあと、記者役の26人から拍手が起こった。

 −後編は「64」の事件と同じような少女誘拐事件が起きる。

 後半は過去と今の事件がなぜ起こったかが、警察内部の問題と重なっていろんな人物が絡んでスリリングに展開する。脚本の段階で原作者の横山さんと何度も相談し、佐藤さんの意見も聞いて、原作と違うラストシーンを用意した。三上の娘がなぜ家を出たかなどを考えると、三上が何かに向かって「行動」することで映画は終わりたいと思った。

■映画の醍醐味

 −4時間のドラマのエンディングだ。

 お客さんに映画の中に入ってもらって、三上たちと一緒に生きてほしいと思った。それがこの映画の醍醐味(だいごみ)になるし、作ったかいがある。多くの人に「64」を体験してもらえたらうれしい。

 ※「前編」はTOHOシネマズ梅田・同なんばで上映中。「後編」は6月11日から同劇場で。

 ぜぜ・たかひさ 1960年、大分県生まれ。京都大在学中から自主映画を製作。助監督を経て、89年「課外授業 暴行」で監督デビュー。以降、「MOON CHILD」(2003年)、「感染列島」(09年)など。「ヘヴンズ ストーリー」(10年)がベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞など2冠、「アントキノイノチ」(11年)がモントリオール世界映画祭でイノベーションアワードを受賞している。