日曜インタビュー

滅私奉公の気持ち大事に

映画「殿、利息でござる!」
監督 中村 義洋
2016年5月15日

こんなふうに生きたい

(C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会
「初の時代劇で楽しかった」と話す中村義洋監督=大阪市内のホテル

 磯田道史の「無私の日本人 ?田屋十三郎」を映画化した「殿、利息でござる!」(松竹配給)が大阪ステーションシティシネマほかで上映されている。初の時代劇に挑戦し「こんなふうに生きたい」という思いでメガホンを取ったという中村義洋監督に話を聞いた。

■10年に1度の題材

 −時代劇に取り組むのは初めてとか。

 前からやりたかった。「必殺」シリーズが好きでよく見ていたし、時代劇のセリフは書ける自信があったので脚本も自分で書かせてもらった。とにかく、磯田さんの原作を読んで感動し、ぜひやりたいと直接会ってお願いした。磯田さんは話の元ネタになった古文書「国恩記」を読んで涙が出たとおっしゃって、僕もそれを読ませてもらった。これは10年に1度巡って来るかどうかの題材だと思った。

 −宮城県の吉岡宿が舞台になっている。

 仙台藩の直轄領でなかったため助成金が給付されなくて、町人は重税に苦しんでいた。さびれていく宿場町の将来を心配した?田屋十三郎(阿部サダヲ)が、知恵者の篤平治(瑛太)が発案した、町人が金をためて仙台藩に貸し、その利子で町の経済を潤そう−という計画を8年かけて実践する話。

 −ためた金は千両で、今でいえば約3億円。

 年間の利子は100両(約3千万円)で、吉岡宿の人はそれで幕末までゆとりある生活をすることができた。その計画が途中でバレれば頓挫することがあり、仙台藩の役人(松田龍平)に採用されなければ功を奏さない。その辺のスリルとサスペンス。松竹から「コメディー色で」という注文があって、それもこちらの考えと合致した。

■世直しが目的

 −搾取される側の町人が、藩から搾取することになる。

 そのプロセスが泣かせる。十三郎と篤平治が音頭をとり、商いを営む商人に声をかけるが、中には反対する者がいるし、なかなかうまくいかない。また、金を出せば、個人的なもうけにつながると思っている者もいる。十三郎たちの考えは、あくまで行き詰まった町の財政を立て直すことであり、世直しが目的なのである。

 −これは現代の地方行政にとっても参考になる話。

 私利私欲ではない。町の人のため、子どもたちのためという気持ちが強い。これが江戸時代に本当にあった話だから、現代人のわれわれは襟を正さねばならない。「国恩記」は僧侶が書いたとされているが、その計画は十三郎ら9人が組んでやり遂げた。最初アイデアを出した篤平治は、単なる思いつきだったが、だんだん本物になっていくのが面白い。

 −9人が「つつしみの掟(おきて)」を作るのが大きなポイント。

 「計画を口外するな」など五つの掟がある。「寄付するときは、名前を出すことをつつしむ」ことになっており、厳重に秘密にして進めなければならない。だから、誰が何を考えているか分からないところもあり、例えば十三郎は実弟の甚内(妻夫木聡)が寄付した額について抗議しても本当のことは教えてもらえないし、その家の経済状況は誰にも分からない。

 −9人の俳優の演じる「腹芸」が見どころ。

 阿部さん、瑛太さん、妻夫木さんをはじめ竹内結子さん、寺脇康文さん、西村雅彦さん、千葉雄大さん、重岡大毅さんらが戦々恐々。加えて、十三郎の父親で先代に山崎努さん、その妻に草笛光子さんが扮(ふん)して、それぞれが名演技を見せてくれる。一方の仙台藩は逆に町人たちの計画をつぶそうとするわけで、最後に仙台藩主の役でスケートの羽生結弦さんが登場する。

■羽生結弦登場!

 −羽生君は仙台出身だから、藩主の役にぴったり。

 若い藩主で、さっそうと登場し、一気にセリフをしゃべり、サーッと引き上げて行く。ものすごい存在感で、俳優さんたちはあっけにとられていた。

 −みんなが謙虚で前向きに生きている。

 今の日本の世相と似た先が見えない時代だけど、そうすればまちが元気になるし、みんなの生活が安定すると思って頑張る。昔は滅私奉公という言葉があったが、古いけど、その気持ちが大事だとあらためて思った。映画を見て「こんなふうに生きたい」と思ってもらえたらうれしい。

 なかむら・よしひろ 1970年生まれ。茨城県出身。成城大学在学中から自主映画を撮り、ぴあフィルムフェスティバルでグランプリ受賞。助監督を経て脚本家デビューし、監督としては「アヒルと鴨のコインロッカー」で注目される。ヒット作「チーム・バチスタの栄光」などを経て「白ゆき姫殺人事件」「残穢(ざんえ)−」など多数。