日曜インタビュー

段々怪しく怖くなる…

映画「クリーピー  偽りの隣人」 
監督 黒沢 清
2016年6月12日

好きなサイコスリラー

「上手な俳優さんとエンタメ映画を撮った」と話す黒沢清監督=大阪市内のホテル
西島秀俊(左)と香川照之=(C)2016「クリーピー」製作委員会

 前川裕のミステリー小説を黒沢清監督が映画化した「クリーピー 偽りの隣人」(松竹、アスミック・エース配給)が18日から、大阪ステーションシティシネマほかで公開される。これが得意ジャンルである黒沢監督は「だんだん怪しく怖くなる、サイコスリラー映画になった」と出来栄えに自信をのぞかせる。

■原作の面白さ

 −ホラーは得意ジャンルになっている。

 ホラー作品が多いのでそう思われているが、サイコスリラーとしては「CURE」以来だから久しぶり。前川裕さんの小説を映画化しないかという話を受けて原作を読んで、すごく面白かった。隣人が一番怖い人だったというシンプルな話は映画的にコンパクトに収まると思った。

 −隣に殺人鬼が住んでいたらやっぱり怖い。

 元警官で大学で犯罪心理学を教えている教授の高倉(西島秀俊)が、妻の康子(竹内結子)と新居に引っ越して来るところから映画は始まる。西島さんには「ニンゲン失格」など3本の作品に出演してもらっており、これが4本目。昔から映画青年だったが「最近は忙しくてあまり見られない」と言っていたが、今はすっかり一回り大きな俳優になっていた。

 −その隣の家の主人が西野(香川照之)である。

 香川さんとも「トウキョウソナタ」など3本一緒にやっており、これが4本目。彼もすっかりスターになっており、イメージ的に怖いというか、何をするか分からないという感じが最初からある。彼の正体が少しずつ分かってくる中で、だんだん怪しく怖くなってくるようにした。特に、西野家の中に入ると、お化け屋敷ではないが、入っていくだけで怖さが増していくように。

■非現実的な世界

 −普通の家の外観なのに、中に入ると別世界になる。

 美術の人に「リアルさよりも、非現実的に怖いイメージで」とお願いした。その方が娯楽映画のテーストに合っているし、今回は西島VS香川のスター映画であるし、その対決の場として西野家の内部があるようにしてもらった。これまでやったことがあるようでない、危なっかしくて刺激的な作品になったような気がする。

 −高倉は西野の怪しさに気付いても、妻の康子の変化に気付かない。

 その辺はネタばれになるので言えないが、高倉と西野の対決の向こうで、もう一つの怖いドラマが進行している。高倉に分からないように、西野と康子が裏で動いていたことになる。観客は高倉の目線だから、彼と同様に怖い謎解きをしていかなくてはならない。西島さんは若いときからナイーブで素直な演技だったが、今回はそれに深みが加わってとてもいい。

 −車の移動シーンでスクリーン・プロセスを使っていた。

 今はあまり使わないが、自動車の移動シーンはスクリーンの前に車を置いて撮影した。昔のヒチコックのスリラー映画などでよく使われた撮影手法。車の中は密室空間で、そこにいる人物が何を考えているか、どう動こうとしているのかがうかがえる。この映画の場合は、3人の人物が同じ方向を向いていることを知らしめるためにこれを使った。

 −結局、これは家族の危機の話で、黒沢映画の本質でもある。

 何もなかったような高倉夫婦の間にも、2人が気付かなかったようなことが起きていたということがある。家族、あるいは夫婦というのはしっかりしているようで危うい関係でもある。その経緯に気付かないと大変なことになる。人間関係はちょっとしたことで崩れる。だから、家族はお互いを大事に、思いあって生きていかねばならない。

■世紀末思想

 −黒沢清の映画的原点でもある。

 家族の生き方を描いた「トウキョウソナタ」や「岸辺の旅」などのテーマと、ホラーサスペンスのそれの間に共通しているのはそれかもしれない。映画デビュー時に、野望はほとんどなく、「世紀末」を感じていたし、それは今の時代も続いている。撮りたいものを撮るのではなく、「その時撮れるもの」を撮りたいと思う。その方が健全なような気がする。

 くろさわ・きよし 1955年生まれ。兵庫県出身。立教大時代から8ミリを撮り、卒業後ピンク系「神田川淫乱戦争」(1983年)で監督デビュー。ホラー「スウィートホーム」(88年)で一般映画デビュー後、「CURE」「回路」など多数。「トウキョウソナタ」(2008年)でカンヌ国際映画祭審査員賞、「岸辺の旅」(14年)で同映画祭監督賞など。