日曜インタビュー

生身の人間の青春映画

映画「日本で一番悪い奴ら」
監督 白石 和彌
2016年6月19日

出世目指して真っすぐ

「警察も会社も内部は同じかもしれない」と話す白石和彌監督=大阪市北区の東映関西支社
綾野剛(右)と仲間たち=(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

 「覚醒剤の使用、営利目的所持」「銃刀法違反」で捕まった警察官を描いた映画「日本で一番悪い奴ら」(東映配給)が25日から、大阪ステーションシティシネマほかで公開される。実話の映画化だが「出世するために真っすぐ生きた、生身の人間の青春映画になった」と白石和彌監督は話す。

■「凶悪」に続いて

 −前作「凶悪」に続く実録映画。

 「凶悪」は実録事件を元にしたフィクションが原作だったが、今回も同じで、北海道警察の警察官だった稲葉圭昭さんが大学を出て道警に就職して、銃器対策室の初代捜査員となり約8年間で100丁を上回るチャカ(拳銃)を押収して表彰された実話。それが2002年に覚醒剤使用、営利目的所持、銃刀法違反で逮捕された。その間の出来事である。

 −「恥さらし 北海道警悪徳刑事の告白」という原作がある。

 懲役9年、罰金160万円の刑で、幹部警察官による前代未聞の不祥事といわれた。まずその本を読んだが、生身の人間が書かれており面白かった。映画では綾野剛君が演じている諸星は、警察官として出世するために、先輩の村井(ピエール瀧)に教わった通り、外部(やくざ)にS(捜査協力者)を作って、その協力でチャカ押収の成績を上げる。

 −すごく真っすぐな警察官。

 諸星は学生時代、柔道部で、道警の柔道部からスカウトされて就職している。実際、彼のおかげで道警の柔道部は優勝したことがある。しかし、警察内の仕事がうまくいかず他の署員からいじめられて、それを先輩の村井に助けられた。その村井が淫行で逮捕され警察を辞めたことで、諸星は自立しSの黒岩(中村獅童)、山辺(YOUNG DAIS)、ラシード(植野行雄)らを使って成績を上げていく。

■不道徳一代記

 −この4人のチームがいい。

 原作を読んで、こんな不道徳な一代記をやるなら、今一番ノッてる俳優にやってもらいたいと思って綾野君に声を掛けた。獅童さんは昔の東映映画に出て来た俳優さんの匂いを持っている人で、サングラスをかけると「仁義なき戦い」の世界になる。山辺とラシードの2人も綾野君とすごく息があった。

 −当人の稲葉さんはどんな感じの人?

 なかなかカッコいい人で、色っぽい。バツ2だそうだが、女性にもてそうで、またまめな感じ。その生き方に共感するところもあって、そこにあったオーラのようなものを映画で表現したいと思った。話を聞いて面白かったのは、拳銃を枕元に置いて寝た時、目覚ましが鳴って跳び起き、拳銃の引き金を引いてしまったという出来事が2回あったとか。

 −諸星と3人のSは仲がいいけどよくケンカをしている。

 その辺は青春映画によくあるシーンでもある。一般社会では悪いことでも、警察内部では拳銃や覚醒剤などが普通にあって、それをダシにしたおとり捜査などもあって、警察内部の会議シーンなどは外部には聞かせられない。警察庁長官が撃たれた事件の直後は、拳銃押収のノルマがきつくなり、警察が金で買ったりもする。

 −諸星も内部の人間だから、承知の上で行動していた。

 覚醒剤でその枠を超えてしまったことはあるが、それまでは警察内部では出世コースを歩いていた優秀社員と言ってもいい。映画では26歳から48歳までを描いているが、最後の方で左遷されて地方に行かされても、また道警に戻るとこだわるのは本当に警察を愛しているから。その一生懸命な熱量を出して、綾野君がうまく演じてくれた。

 −逮捕されても、彼は道警内部の関わりを話すことはしない。

 日本の優秀なサラリーマンだと思う。企業犯罪が起こる度に、会社の上層部が会見で謝罪するのが定例化しているが、みんな企業ぐるみのことだけは「あり得ない」と否定するのが常。諸星も「もう戻れない」と分かっていても、それを話すことはない。諸星は組織から逸脱していない。組織が逸脱しているから「悪い奴ら」になるのだ。

 −師匠の故若松孝二監督に見せたかった?

 若松さんは警察権力の側からは絶対映画を撮らないが、これは許して下さるかもしれない。近く、元若松組で何か映画を作ろうと話しているので、決まったら応援してください。

 しらいし・かずや 1974年生まれ。北海道出身。中村幻児監督の映画塾に参加。以後若松孝二監督に師事し、犬童一心、行定勲監督にも助監督で付く。2010年「ロストパラダイス・イン・トーキョー」で監督デビュー。2作目「凶悪」(13年)で同年の日本の映画賞を総なめ。主演のピエール瀧とリリー・フランキーが演技賞多数。今作は3作目。