日曜インタビュー

不幸な夢から覚めて

映画「イレブン・ミニッツ」
監督 イエジー・スコリモフスキ
2016年7月24日

気持ちを楽にするために

「11という数字の対称性と単純さに魅せられた」と話すイエジー・スコリモフスキ監督=大阪市天王寺区の一心寺
「イレブン・ミニッツ」のR・ドーマー(左)とH・ハプコ=(C)2015 SKOPIA FILM.EMENTPICTURES.HBO.ORANGE POLSKASA.TVP SA.TUNULT

 ポーランドの巨匠、イエジー・スコリモフスキが5年ぶりに発表した映画「イレブン・ミニッツ」(コピアポア・フィルム配給)が8月27日から、大阪のシネ・リーブル梅田で公開される。「不幸な夢から覚めて、気持ちを楽にするために撮った」という巨匠に話を聞いた。

■5年ぶりの新作

 −前作「エッセンシャル・キリング」から5年ぶりの映画になった。

 その前の「アンナと過ごした4日間」は17年ぶりだったから、それに比べれば今回は早かった。詩や小説、画家もやっているので時間はあるようでないが、3年前にある不幸な事件が周囲で起きて、その衝撃から立ち直れずにいたので、その不幸な夢から覚めて、気持ちを楽にするために映画を撮った。

 −その事件とは?

 親しい友人が2人亡くなった。こんな不幸なことが私の周りで起きるなんて信じられなかった。それで、10人の登場人物を挙げて、彼らが降りかかった事件で、何をどう受け入れて行動するのかを考え脚本を書いた。1人10分の話で、初めはタイトルを「10ミニッツ」としたが、それは丸いイメージなので「11ミニッツ」に直した。

 −冒頭、いろんなカメラアングルの映像から始まる。

 プロローグは登場人物たちにとってのサイバー墓地みたいなものにしようと思って、携帯電話のカメラや監視カメラなどを使って撮った。直接的な感覚や真実味を伝えたいと思った。

 −「11」という数字はアメリカの「9・11」があり、日本では「3・11」がある。

 それも当然考えたが、あえていうのではなく、あるいは観客を欺くという狙いもあった。「9・11」らしい、高層ビルの間を飛行機が飛んで行く場面も入れている。その辺は考えてもらえればうれしい。誰でも不幸を避けることはできない。

■時間の不思議さ

 −ドラマは午後5時から5時11分の間に起きる。

 時間の不思議さを描いた。考えもしなかった不幸が訪れて、それが現実なのか、夢なのか分からなくなる。場面は切り刻まれて、やがて目覚めたときのような時間がやって来る。それは雪崩のごとくで、車が衝突し窓から身を投げ出された光景に似ている。不幸の蓄積でそれは終わるが、夢から覚めた時から映画は始まる。ラストからの発想になっている。

 −映画監督がホテルの一室で女優を面接試験しているシーンから始まる。

 たまたまよくある光景だが、そこからいろんな人物につながっていく。映画監督(リチャード・ドーマー)が女優(パウリナ・ハプコ)を口説きながら採用をほのめかせるが、女優の亭主がそこに現れるまでのスリリングな時間。同じホテルで仕事をしている人、それを訪ねる人の交流風景。それは全部崩壊の方向に突き進む。ホテルの前のホットドッグ売りの男性はまだ、屋台横のガスボンベの危機に気付かない。

 −11分の間のドラマを1時間21分で描いている。

 時間のつなぎと交差は脚本を書く時に一番苦労したが、私自身の現実の状況が一方にあって、その暗い気持ちを少しでも楽にしたいと思って書いていた。1日4ページで、20日間80ページきっちりで書いた。時間を表現するのは、「アンナと−」や「エッセンシャル−」でやったことでもあった。

 −女優の夫がイライラしながらホテルを訪ねて起こる事件に驚かされる。

 映画監督は落ち着いているが、女優の旦那はイライラするばかりで、何をどうしたいのか分からない。それが私自身と重なるかどうかは分からないが、それに近いところがあったのは隠せない。ペシミスティックなところと、笑えるところがあるかもしれない。

 −ラストシーンは想像できなかった。

 われわれは薄氷の上を歩いている。確かなことは何もない。1日、1時間、次の1分でさえも不確かだ。全く予期せぬ形ですべてが不意に終わってしまうかもしれない。

 −次回作は?

 次は画家の仕事をやりたいので映画はどうなるか。今のところそのエネルギーは5%というところか。

 1938年ポーランド生まれ。大学で民族学などを学びながらボクシングに興じる。同国先輩のアンジェイ・ワイダやロマン・ポランスキーと知り合い、彼らの脚本を書き俳優デビューも。自ら主演した「身分証明書」(64年)で監督デビュー。「手を挙げろ」(67年)が国内上映禁止になり国を離れる。ベルリン、カンヌ、ベネチア三大国際映画祭で受賞の巨匠。