日曜インタビュー

もう一度 前を向いて…

映画「永い言い訳」
監督 西川 美和
2016年10月9日

歩き方を見つけること

「みんなが持っている”欠点”をベースに…」と話す西川美和監督=大阪・堂島のアスミック・エース関西支社

 昨年、直木賞候補になった同名小説を自ら脚本・監督した映画「永い言い訳」(アスミックエース配給)が14日から、TOHOシネマズ梅田・同なんばで公開される。妻(深津絵里)に先立たれた夫(本木雅弘)の悔恨を描いたもので「もう一度前を向いて、歩き方を見つけるまでを描いた」という西川美和監督に話を聞いた。

■直木賞候補作

 −長編映画は4本目だが、直木賞候補になった自作小説の映画化は初めて。

 映画はデビュー作の「蛇いちご」から3年越しに1本ずつ作ってきたが、2時間前後の映画で語りきれるものではなく消化不良を感じていた。一度小説にしてストーリーラインと関係ないものを省かずに書いてから映画にしてみようと思った。題材は東日本大震災で多くの人が別れという悲しみを背負ったが、ほかにもいろんな別れがあるし、後味の悪いそれもある。私自身その経験があり、それを書こうと思った。

 −結果、直木賞候補になって、その映画化となった。

 今までの3本の映画は全部オリジナルで、そこに小説というクッションを自分で入れてみた。脚本にする時は小説で人物像を書き込んでいるので割と楽だったが、うまく移行できなかったところも多かった。主人公を男性にしたのは、書きやすかったこともあるし、深く理解できるところがあったから。そして脚本を書いて主人公の衣笠幸夫を俳優の本木さんに決め、彼の人間性に役を近付ける作業も必要だった。

 −本木という人は幸夫のイメージに近い?

 以前から仕事を一緒にと思っていたがようやくチャンスがきた。それで脚本を渡したら「コンプレックスやゆがんだ自意識など幸夫が持っているものにすごく共感する」と。「そこまで映画で人間性を出していいのか」と心配されたりした。妻の夏子が交通事故で急に死んで、同じ時間に幸夫は愛人である智尋(黒木華)を家に引っ張り込んで浮気をしていた。そのショックは大きい。

■小説と映画と

 −そこから「長い言い訳」が始まる。

 それは「長い」けれど、幸夫のそれは「永い」になってしまう。あきらめがつかないこともあるが、その後悔が大きい。ましてや妻のスマホに「もう愛していない」と書かれていたことに、悲しみよりも怒りのようなものがこみ上げてくる。小説は1人だが、映画は俳優とスタッフの共同作業だから、自然に小説と違うこともやりたくなる。

 −夫婦に子どもはいなかった。幸夫は今後どう生きるか。

 「救いはあるのか」という絶望感から最初はなかなか逃げられない。私の経験からすると、30代の後半に、あれもしたい、これもしたいと思ったがなかなか思うようにいかず、「人生は他者」という思いも強かった。自分の長所は? 弱点は? 幸夫の考えはその辺でシンクロしていた。妻と一緒に旅に出て事故死した女性友達の大宮ゆき(堀内敬子)にはトラック運転手の夫(竹原ピストル)と2人の子どもがいた。

 −幸夫が大宮家に出入りし、子どもの世話をする生活が始まる。

 幸夫は中年男性のよるべなきところで、父親が仕事で家にいないとき、子どもたちに何かしてやろうと思うが何もできない。しかし、一緒にいる時間が増えてくると、幸夫の気持ちが少しずつ明るくなって、彼の歩き方が変わってくる。「もう一回、前を向いて、歩き方を変えてみよう」という気持ちが生まれてくればしめたものである。

■反省も後悔も

 −本木が幸夫と重なって苦しそうで、見る方もつらいところがあった。

 本木さんは幸夫とほとんどリンクしていた。いいところもダメなところも、かわいいところも、人間の愛すべき弱さもたっぷり持った方で、その弱さを隠すことなくすべてカメラの前にぶつけてくれた。映画で反省も後悔も喜びも束ねて描くというのは頻繁にあることではなかったので、幸夫は今までの作品の中で最も私自身に近いキャラクターであったし、本木さんに感謝している。

 にしかわ・みわ 1974年生まれ。広島県出身。早稲田大在学中に是枝裕和監督の「ワンダフルライフ」(99年)にスタッフとして参加。助監督を経て「蛇いちご」(2003年)で監督デビュー。「ディア・ドクター」(09年)「夢売るふたり」(12年)など。各種映画賞多数受賞。小説も書き今作で直木賞候補2回目。