日曜インタビュー

男の60代 ロマンとは

映画「秋の理由」
監督 福間 健二
2016年12月18日

やりたいことはやれること

「60代に10本映画を作る」と話す福間健二監督=大阪市淀川区の第七藝術劇場
伊藤洋三郎(右)と寺島しのぶ=(C)2016「秋の理由」製作委員会

 詩人でもある福間健二監督が撮った新作「秋の理由」(渋谷プロ配給)が大阪・十三の第七藝術劇場で上映されている。自らの同名詩集を映画化したもので、「やりたいことは、やれること。60代の男のロマンをつづった」という福間監督の映画への思いを聞いた。

■自詩集の映画化

 −詩集の映画化という経緯は?

 それが流行しているらしい。長編映画は5本目になるが、映画はやはり作るのに相当なパワーがいるので、自分がやってきたことから題材を取るのがいいと思った。と同時に、やりたいことというのは、自分がやれること。今やれることは何か。それは60代の男の思いを映像に託すこと。そんな思いで作った。

 −これまでは女性映画が多かった。

 デビュー作以来、その傾向があるが、もちろん、ヒロインを思う男の存在がある。今回は僕と同じ60代の男を登場させて、僕の思いを両方に託すという内容。1人は小説家で代表作「秋の理由」以降、作品が描けなくなっている初老の村岡(佐野和宏)。もう1人がそれを出版してきた小さな会社の編集者である同年代の宮本(伊藤洋三郎)。

 −2人が生き方で向き合い、1人の女性を巡って対立する。

 僕の好きなフランス映画「冒険者たち」で、1人のヒロイン、ジョアンナ・シムカスを巡って友人のアラン・ドロンとリノ・バンチュラが冒険を繰り広げた。あれをイメージしたことは確か。こちらは60代で老いが入っているが、日本では故佐藤泰志さんの映画「そこのみにて光輝く」のような、絶望の中に少しの希望を見るような作品にしたかった。

■故佐藤泰志の世界

 −それで「そこのみにて光り輝く」の脚本を書いた高田亮と組んだ。

 彼は今年、もう1本、佐藤泰志の「オーバー・フェンス」も書いて売れっ子になっているが、僕は随分前から一緒に仕事をして来た経緯があって、今回の仕事で手伝ってもらうことにした。周りの状況が絶望に近いという佐藤泰志の思いは、今の時代の60代に通じるところがあるし、例えば映画で村岡がロープで自殺することを考えるシーンは佐藤泰志の世界に通じる。村岡は精神的な不調で声が出なくなっており、佐野さん自身も4年前に喉頭がんを患って声を失っている。

 −村岡と宮本がけんかをするシーンはすごくリアルだ。

 村岡は声をなくしたことで半ば人生を諦めかけており、それを励ます宮本は、彼の奥さんの美咲(寺島しのぶ)が昔から好きであり、彼との友情に微妙な影を落としている。村岡の佐野さんは俳優出身で、この映画に出演してもらっている瀬々敬久、佐藤寿保、サトウトシキという監督たちと一緒にピンク映画四天王と呼ばれていた監督だ。

 −ベテラン俳優の伊藤が演じている宮本が福間監督の分身のように見える。

 彼はなかなかの二枚目で、いろんな映画で活躍しており、とてもいい芝居をしてくれたし、女優の寺島さんがヒロインを演じてくれて男女の関係が分かりやすくなっていると思う。僕は寺島さん主演の「キャタピラー」などを撮った故若松孝二監督の作品「現代性犯罪闇黒篇−ある通り魔の告白」で脚本を書き主演した。そんな関係で彼女が脚本を読んで出演をOKしてくれたのがうれしかった。

 −寺島が入ると映像がしまるという感じがする。

 彼女は脚本にこだわらず、人間と向き合って芝居をする。それで僕は「地」を出した感じで演じてほしいと注文を出した。彼女は家庭に帰ると普通の主婦だから、その感じがよく出ていたし、台所でサランラップを切る場面で、さっと切る格好が自然でよかった(笑)。もう1人の若いヒロインの趣里さんが天使のような役でいいアシストをしてくれた。

 −中年初老映画の名作に仕上がった。

 40代半ばのころ、詩の世界で「中堅の星」といわれたことがあるが、今度は「60代の星」に? 僕は60代で映画を10本撮るつもり。それまで60代は終わらないようになっている。昔、ボブ・ディランのことを「傲慢(ごうまん)と謙虚さ」と書いたことがあるがノーベル賞をとって、それが当たっていると思った。

 ふくま・けんじ 1949年生まれ。新潟県出身。詩人、映画監督。映画は69年の若松孝二監督の作品「現代性犯罪闇黒篇−ある通り魔の告白」で脚本・主演、次の「青春伝説序論」で監督デビュー。同時に詩を書き始め、現代イギリス詩の研究も。劇場映画は95年「急にたどりついてしまう」を第1作に今回で5本目。著書に「石井輝男映画魂」など。