日曜インタビュー

背伸びせず自身を投影

映画「僕らのごはんは明日で待ってる」
監督 市井 昌秀 
2017年1月8日

米つぶの束のように温かく

「作家性のある映画を撮りたい」と話す市井昌秀監督=大阪市内のホテル

 中島裕翔(ゆうと)(23)と新木(あらき)優子(23)が初共演した映画「僕らのごはんは明日で待ってる」(アスミック・エース配給)がTOHOシネマズ梅田・同なんばで上映されている。若い2人に「背伸びせず自身を投影して、米つぶの束のような人の温かさを描いた」という市井昌秀監督に話を聞いた。

■3年ぶりの新作

 −3年ぶりの新作になるが、ちょっと時間が空いた。

 前作は3年前の「箱入り息子の恋」で、「恋ダンス」の星野源さんが映画初主演した作品だった。それで星野さんが日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞して、僕も日本映画監督協会の新人賞をもらった。メジャー第1作が恵まれたので次回作はすぐかと思ったが、意外に時間がかかった。

 −自分の撮りたいものだけを撮る?

 基本は作家性のあるものを撮っていきたい。自主映画2作目の「無防備」が日本だけでなく釜山国際映画祭でグランプリをいただいたことも、作りたいものを作ればいいんだと思った。今回の「僕らのごはん−」は瀬尾まいこさん(42)の小説が原作で、彼女のほかの作品も含めて、それが僕の映画の世界と似ているというのが大きかった。

 −市井作品の主人公は精神的な負いを持っている。

 「無防備」の主人公は赤ん坊を亡くしてその後、夫婦生活がうまくいかなかった女性。「箱入り息子」の彼は「閉じこもり型」の人間で、彼が恋をする相手(夏帆)は盲目。それはたまたまで、大きな震災後、ある意味で日本人はみんなどこかで何かを抱えたということと重なる。今回中島君が演じた亮太は兄を亡くしており、新木さんの小春も両親がいない。

■「米袋ジャンプ」

 −高校生のころから大人になるまでの揺れる恋が描かれる。

 亮太は中学生のころ兄の死ですっかりめいって、人と付き合わなくなっているが、同級生の小春に運動会の「米袋ジャンプ」競技でペアになって初めて心を開く。毎日食べる米をくるんでいる袋に入って走る競技で、それは生きるための原初的な「食べ物」で、「ごはん」は米つぶの束であり、人間は1人では生きていけないということにつながる。

 −亮太が若いのに「たそがれる」というのが面白い。

 亮太は前を向いていない。クラスメートは誰も相手をしなくなるが、小春だけは違う。彼女には彼がたそがれる「陰」が見えて、ひょっとして自分の中にあるそれと同じかもしれないと思う。亮太の中島君は実際に陰があって深みも備えており、この役にピッタリ。小春の新木さんは役と同じように隠しながら明るく振る舞うような人で、笑顔がとびきりすてきなところがいい。

 −2人は最初なかなか打ち解けなかったとか。

 最初はお互いに距離があったが、「米袋」に入って身体を接近させてから笑顔が多くなっていった。新木さんの方から中島君に近づいていったようで、役の関係と一緒になった。それから亮太も余裕ができて優介(岡山天音)という男友達もできるし、明るい小春に引っ張られるようにして日々が明るくなる。

 −しかし、小春が亮太に「別れ」を切り出す。

 その辺から話がシビアになるかもしれないが、小春は同居しているたった一人の祖母の芽衣子(松原智恵子)に「彼は恋人にふさわしくない」と言われたと告げるだけで、亮太にとっては寝耳に水のような出来事になってしまう。「突き放すというのが愛情の裏返し」ということがまだ彼には分からない。

 −小春の「決心」は男には分からない。

 この映画は青春映画といわれるものではあるが、挫折から再生という流れはあるとしても年齢的なことだけでない人間としての生き方が底にある。2人の俳優が背伸びせずに素直に役を演じてくれているので、僕もほとんど自然に任せて一緒に彼らを見守った。原作へのリスペクトと、僕個人の格闘もそこに込めた。

 −次回作はもう撮り終えたとか。

 初野晴さんの青春ミステリー小説が原作の「ハルチカ」(3月4日公開)。若い佐藤勝利君と橋本環奈君が主演。いろんなジャンルをやりたいが、たまたま青春ものが続いている。

 いちい・まさひで 1976年生まれ。富山県出身、関西学院大卒業。漫才グループ「髭男爵」のメンバーから俳優に転身し、さらに自主映画「隼」(2004年)で映画監督に。第2作「無防備」(08年)で国内外の映画賞を受賞。出産シーンが話題になった。「箱入り息子の恋」(13年)で映画初主演の星野源が日本アカデミー新人賞、自身は日本映画監督協会新人賞をそれぞれ。若手の大物である。