日曜インタビュー

誠実に生きた時間を見て

ドキュメンタリー映画「人生フルーツ」
監督 伏原健之さん
プロデューサー 阿武野勝彦さん
2017年1月15日

みずみずしい老夫婦

「誠実に生きるといい人生がある…」と話す伏原健之監督(左)と阿武野勝彦プロデューサー=大阪・十三の第七藝術劇場
「人生フルーツ」の一場面=(C)東海テレビ放送

 建築家の夫と専業主婦の老夫婦の晩年の時間を記録したドキュメンタリー映画「人生フルーツ」(東海テレビ製作・配給)が大阪・十三の第七藝術劇場で上映されている。「みずみずしい老夫婦が誠実に生きた時間を見てほしい」という伏原健之監督と阿武野勝彦プロデューサーに製作の裏話などを聞いた。

■90歳と87歳の夫婦

 −東海テレビ製作の劇場映画第10弾になる。

 伏原 僕は「神宮希林 わたしの神様」に次いで2本目の映画になる。今回は90歳の元建築家の津端修一さんと87歳の奥さんの英子さんを撮った。2人は知る人ぞ知る夫婦で、愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンの一隅に住んでおり、みずみずしい姿を約2年間追いかけた。修一さんは東大卒の建築家で、1955年に日本公団住宅に入社し、多くの宅地造成に誠実に携わっているが、60年代の高蔵寺ニュータウン計画で、構想したものと違うものになったことから仕事から遠ざかった。

 −その高蔵寺ニュータウンに自ら住むようになった。

 伏原 高度経済成長期で、スローライフを提唱した修一さんにとってニュータウンは理想にほど遠い無機質な大規模団地になった。それで75年に自ら手がけたタウンの土地を買い、家を建てた。それは雑木林のある家で、亡くなるまで50年暮らした。2014年1月に修一さんに初めて電話したが、「テレビの取材はお断り」と言われた。それからは粘って何とか会える事になった。

 −プロデューサーはどう考えたのか。

 阿武野 取材が難しそうで乗り気じゃなかったが、修一さんがニュータウンの設計者で、妻は料理上手でとてもいい人。何よりも伏原君が「修一さんが亡くなった父親の姿に重なる」と取材を諦めなかったのでゴーサインを出した。ドキュメンタリーは他者を題材にしながら自分の姿を表現するという傾向もある。

■父のように見えて

 伏原 大体、ニュースは年をとることをネガティブに伝えることが多く、超高齢化社会、老老介護、貧困老人、孤独死などの言葉が飛び交う。僕はもっとゆるりとしていて、それでいて胸にひっかかる物語が作りたかった。僕は4年前に父を亡くしており、酒が飲めないこともあって父と一杯やりながら人生について語り合ったことがなかった。修一さんが父親と重なり、取材を諦められなかった。

 −夫妻の生活は静かでんのんびりして、平和である。

 阿武野 特に何が起こる訳でもない。ただ僕はこの映画は「風が吹けばおけ屋がもうかる」ではないが、「風が吹けば、枯れ葉が落ちる。枯れ葉が落ちれば、土が肥える。土が肥えれば、果実が実る…」というイメージがした。津端さん夫婦は「こつこつ、ゆっくり」「ときをためて生きている」と。そこから「人生フルーツ」というタイトルが浮かんだ。

 伏原 2年間で40分テープを400本ほど回した。修一さんは結構バリアーがあってカメラから逃げるところがあったが、英子さんはいつも笑顔で協力してくださった。雑木林のある家で全体がグリーンのイメージがあるので、「人生フルーツ」というタイトルは最初違うなと思って、僕なりに「雑木林のふたり」など100以上の仮タイトルを考えたが、それを超えるものがなかった。それで英子さんが畑で作ったイチゴ、さくらんぼ、甘夏、桃、スイカ、柿などの映像を編集で足した。

 −修一さんが亡くなる場面に驚かされる。

 伏原 15年6月2日に娘さんから電話があって知った。駆け付けると、修一さんはいつものように、まるで昼寝をしているようだった。眠っている修一さんの顔はきれいだと思った。

■日常が哲学

 阿武野 映画は何一つイベントを映し出していない。あるのは夫婦のたおやかな日常だけだ。だからこそ2人の哲学がさりげなく醸し出されているのではないかと思う。16年4月に、春日井市の津端家を訪ね英子さんに会った。映画でナレーションをしてくれた樹木希林さんと英子さんの「居酒屋ばあば」という番組を作ろうと思った。

 ふしはら・けんし 1969年生まれ。立教大卒業後東海テレビ入社。営業を経て製作局でニュースを担当。報道部で県警キャップや編集長を歴任。「とうちゃんはエジソン」などドキュメント多数。映画は「神宮希林 わたしの神様」(2014年)に次いで今作へ。
 あぶの・かつひこ 1959年生まれ。同志社大卒業後東海テレビ入社。アナウンサーを経てドキュメンタリー製作へ。多数の作品を手がけ、同局の映画第1作「平成ジレンマ」(2010年)を発表し地方TV局製作の先鞭(せんべん)をつけた。ほかに「ヤクザと憲法」など。