日曜インタビュー

現代にひっそり生きる

映画「牝猫たち」
監督 白石和彌
2017年2月26日

地続きのヒロインたち

「ヒロインたちの思いに寄り添った」と話す白石和彌監督=大阪市北区の梅田スカイビル
「牝猫たち」の井端珠里(右)=(C)2016日活

 ロマンポルノ・リブート・プロジェクト第3弾「牝猫たち」(日活配給)がシネ・リーブル梅田で上映されている。「昔のプログラムピクチャー(2本立てのエンタメ路線)と地続きのヒロインが、現代にひっそり生きている姿を描いた」という白石和彌監督にメガホンの狙いなどを聞いた。

■伝説への挑戦

 −若手監督5人が日活ロマンポルノ路線に挑んだ。

 同路線は1971年に始まり、20年近くで1100本の作品が作られた。日本の娯楽映画2本立て公開というプログラムピクチャーを担ったが、これの灯が消えて日本映画の興行形態が変わると同時に、作品も大作仕立てのロードショー形式になっていく。僕はリアルタイムで当時のことは知らないが、伝説として聞いているので、それに挑戦できるのはうれしい。

 −「牝猫たち」というタイトルがいい。

 ある意味、同路線は女性映画だから、その総体としてそのタイトルを付けたし、僕が好きな田中登監督(故人)の「牝猫たちの夜」(1972年)へのリスペクトを込めている。田中監督が大阪でオールロケして撮った名作「色情(秘)めす市場」(73年)が大好きな映画で、僕が映画監督になる動機になった。

 −この世界は若松孝二監督(故人)の弟子から出発している。

 ピンク映画出身の中村幻児監督主宰の映画塾に通った後、若松孝二監督の「明日なき街角」(2005年)から数本助監督をやっている。今回リブート・プロジェクトに参加している行定勲監督の助監督も務めたが、若松監督の影響は大きい。ピンク映画から出発し社会派として国際的に名をなした巨匠。だから今回は、田中さん、若松さんに恥ずかしくないような映画をというプレッシャーがあった。

■池袋のジャンヌ

 −「牝猫」は若い女性3人が東京・池袋の夜の街で生きている姿を追っている。

 新宿の街は大分変わってきているが、池袋はまだ昔の雰囲気が残っているし、僕もよく遊びに行ったところでなじみがあったし、ここに生きる人たちを主人公に選んだ。風俗の世界は時代とともに変わっているが、ある意味、この世界のジャンヌ・ダルクでありながら、ひっそりと生きているというのは同じだと思う。

 −3人が絡む主な男性客がそれぞれで今の時代の世相を表現している。

 雅子(井端珠里)が訪ねるマンションの男性はネット人間で数年部屋を出たことがない。結衣(真上さつき)の相手は売れない芸人で、里枝(美知枝)の相手は独居老人という設定。特に意識したわけではないが、いろいろ取材している内に、それらを組み合わせることになった。結衣に子どもがいてベビーシッターに預けているという事情もリアルで、いるだろうと思った。

 −老人役でベテランの吉澤健が出演している。

 彼は若松監督の作品に出ているが、田中監督の「牝猫たちの夜」でも主演した名優。あの映画の彼が四十数年たった姿ということになる。それとロマンポルノの第1作「団地妻・昼下がりの情事」の白川和子さんにも特別出演してもらった。作品としては、あの時代とどう変わったか、その辺を自問自答しつつ、3人の女性たちを描いた。迷わずに生きてほしいと願いながら。

 −ロマンポルノの枠という条件については?

 10分に一度ぬれ場シーンを入れるという条件はあった。女性に強くあってほしいという願いを込めてエロチシズムを追求した。女優さんがみんな頑張ってくれたし、満足している。製作費は5本の作品が一律で、他の作品の状況を気にしながら、もう少し何とかとかは思った。女優の白川さんに「若ければ私が主演したかった」と言っていただいたのはうれしかった。

 しらいし かずや 1974年生まれ。北海道出身。中村幻児監督の映画塾を経て主に若松孝二監督の助監督を務め、行定勲、犬童一心監督にも付いた。「ロスト・パラダイス・イン・トーキョー」(2010年)で監督デビュー。第2作「凶悪」(13年)で国内の映画賞多数。「日本で一番悪い奴ら」(16年)も話題に。又吉直樹原作のネット配信ドラマ「火花」も。若松監督追悼の新作を準備中。