旅ばな

 外資系シティーホテル、大型リゾートホテルなどの総支配人を経て、現在、ホテル・旅館プロデューサーとしてホテルの再生・運営を主に活動する吉武英行が、旅のエピソードや宿での失敗談、宿の上手でお得な利用の仕方などを連載します。

感傷に浸る旅、九鬼

2017年5月1日
かつての九鬼水軍発祥の地、九鬼漁港

 九鬼町は紀伊半島の東にあたる三重県南部に位置する熊野灘に面した、風光明媚(めいび)な紀州路の尾鷲にある。紀勢道尾鷲からR42号を熊野方面へ。九鬼交差点を左折、R311号で約5キロ。限界集落と区分される、かつての九鬼水軍発祥の地、九鬼漁港を訪れた。

 リアス海岸、驚くほどの透明な海、入り組む入り江に位置するこの漁村は静かな空気がゆっくり流れている。人口が500人を切ったと言われるこの漁村はあまりに静かで、時間が止まったような錯覚に襲われる。

 戦国の時代、九鬼嘉隆の代になり、それまで従っていた北畠氏から織田信長の傘下になったことが九鬼氏の大きな転換点になったようだ。しかし、狭く、交通手段も不便な、ここ九鬼海岸に住み始めたことを考えると、戦に敗れ、落ち延びたものではないかとついつい考えてしまう。

 空の青と海の蒼(あお)が島々の緑を挟んで絶妙のコントラストを描いている。蒼い海を走る小さな漁船に掲げられた、深紅の大漁旗に書かれた那智大権現の文字が、いにしえのロマンをかき立てる。

 そして、ここ九鬼の忘れてはならない、とっておきのお土産を紹介しよう。錦花堂の銘菓「九鬼水軍 虎の巻」。カステラ生地にこしあんのロール状ケーキで旅通の人には超有名である。500人未満の小さな町であるが、この銘菓は午前中には売り切れるという逸品。九鬼を訪れた際には忘れずに買い求めてほしい。歴史とロマンの地、九鬼をぜひ訪れてほしい。

 (ホテル・旅館プロデューサー)