旅ばな

 外資系シティーホテル、大型リゾートホテルなどの総支配人を経て、現在、ホテル・旅館プロデューサーとしてホテルの再生・運営を主に活動する吉武英行が、旅のエピソードや宿での失敗談、宿の上手でお得な利用の仕方などを連載します。

ホテルの矜持(きょうじ)はどこに…

2017年9月18日
「宿泊施設」の機能になってしまったホテルに向かう人たち

 “賞味期限切れ”という言葉が妙に自分にむけられているような錯覚を覚えるこの頃である。この10年の間にホテル旅館の在り方が急激に変化しているように思う。

 例えばホテルのパンフレットひとつ見ても、以前はパンフレットに必ず挟み込まれていた薄い紙、タリフと呼ばれる客室料金表がないのである。どこそこのホテルはシングルがいくらでツインがいくらというふうに明確な料金提示がなされていた。観光型ホテル、リゾートホテル等は休前日料金というシステムはあったが、ビジネスホテルに至っては365日同一料金で、良心的なビジネスホテル等は土日割引等、利用客にはうれしいシステムであった。

 現在の状況を見てみると、全体の95%がノンタリフのホテルとなってきている。今日は6千円、明日は7200円、金曜日は1万3千円と、料金表のないホテルの時代になってしまった。観光客の増加、特にインバウンドと呼ばれる外国人客の観光利用が高まり、宿不足の深刻化で民泊ビジネスも盛んになり、従来は閑散としていた土日のビジネスホテルもフル回転の様相を呈してきた。確かにビジネスチャンスではあるが、出張族の味方でもあったビジネスホテルの変貌には戸惑うばかりである。

 われわれの時代は、利用客のために明確な料金設定をしようと躍起になっていたことが懐かしい。1泊2食の曖昧な料金だてを、泊食分離という考え方で宿泊料金と飲食料金を明確に表示し、利用客側に予算を決めて頂き、公平な運営に知恵を絞っていたことを思い出す。

 ホテルに泊まることが非日常性であった時代から、宿泊すること自体が日常性になり、特別感もなく、ホテル旅館ではなく「宿泊施設」の機能になってしまっている現状に、寂しさを感じてしまうのは私だけだろうか?

 (ホテル・旅館プロデューサー)