旅ばな

 外資系シティーホテル、大型リゾートホテルなどの総支配人を経て、現在、ホテル・旅館プロデューサーとしてホテルの再生・運営を主に活動する吉武英行が、旅のエピソードや宿での失敗談、宿の上手でお得な利用の仕方などを連載します。

高野山…心の道標

2018年3月5日
高野山は異空間の空気感を感じることができる

 いつもはこの地に多く点在する宿坊の打ち合わせくらいでとんぼ返りの高野山。今回は心の道標(しるべ)を探す厳粛な気持ちで小さな旅を試みる。

 高野山は1200年前に、弘法大師によって開かれた真言密教の修行道場で、全国に広がる高野山信仰の総本山である。山の上の盆地に檀上伽藍(がらん)と称する聖地がある。さまざまなお堂や塔が立ち並ぶ景観には圧倒される。仏像、曼荼羅(まんだら)が参拝者を迎え、宿坊での滞在は季節の仏都を感じることができる。

 この仏都のはずれに空海が没した「弘法大師御廟(ごびょう)」がある。「奥ノ院」である。奥ノ院は檀上伽藍と並ぶ高野山の聖地。835(承和2)年に入定した御廟の前には、灯篭(とうろう)堂(拝殿)があり、数知れぬ灯篭が揺らめいている。そしてそこに至る2キロに及ぶうっそうとした杉木立の参道が「奥ノ院参道」。参道の両側には秀吉をはじめとして武将、著名人、企業家たちの墓標がひしめいている。

 この高野山には大勢の信者さん、四国八十八カ所の霊場を巡ったお遍路さんたち、世界中の人々が参詣に来るゆえんはこの空気感にあるような気がしてならない。この奥ノ院に足を踏み入れた瞬間に異空間の大気を感じ取ったのは錯覚ではなく、まぎれもない事実であった。

 泉鏡花の「高野聖」で有名な「一ノ橋」を経て参道を戻り、さらに大師が高野を開くにあたり、荒神を勧請して高野山の大伽藍が成ったと言われる「荒神社(こうじんじゃ)」(立理荒神(たてりこうじん))を訪ね、本殿に向かう長い長い階段を上りつつ考えた。手を合わせることが参拝の目的じゃなく、行き着くまで頑張ることが大切な教えではないかと。

 (ホテル・旅館プロデューサー)