Voice(ボイス)

 大阪を舞台に活躍している“旬な人物”にスポットを当てた大型インタビュー企画「Voice」。それぞれが抱く思いとは。今後の大阪や次世代へ贈るメッセージを語っていただく。

近畿大学学長 細井 美彦さん

2018年6月7日
東大阪キャンパスに設置されている世耕弘一・近畿大初代総長の像。

 近畿大(東大阪市)が志願者数日本一を5年連続で更新中だ。山の頂から巨大マグロが顔をのぞかせるデザインの広告をはじめ、在京の有名私立大学の早稲田大、慶応大と近畿大をひとくくりにした「早慶近」のキャッチコピーなどの奇抜な広報戦略が、結果的に志願者を集めている格好だ。創立100周年プロジェクトも進めるなど、現在の近畿大には勢いがある。2018年度から学長を務める細井美彦さん(62)に今後の大学運営の展開や、大阪の活性化策を聞いた。

■門の外へ

 クロマグロの完全養殖をはじめとする「実学教育」の基礎を築いたのは近畿大創設者の世耕弘一氏(1893〜1965年)だ。大阪には経済を支える町工場が多い。近畿大は技術のシーズ(種)を中小企業に紹介し、活用してもらっている。

 2011年の東日本大震災では、いち早く被災地支援を計画し、医療チームの派遣や医薬品の提供を実施した。東京電力福島第1原発事故に伴う活動として、ポリエステル繊維やオリジナル栽培棚を活用することで汚染土壌を使わないハーブ、トマト、サツマイモ栽培の提案なども手掛けた。大学の門から外に出ることが近畿大のスタンスだ。

■胸に響く情報

 近畿大が大阪専門学校として1925年に創立して今年で93年になる。この間に培った教育システムを情報発信し、世間の共感を得たのが塩崎均・前学長時代の6年間だ。一般入試の志願者数は2014年度入試で初めて日本一になった。17年度は14万6896人、18年度は15万6225人と推移している。

 「早慶近」をはじめ、25年の創立100周年を見据えた東大阪キャンパス整備計画のキャッチコピー「近大をぶっ壊す」など、受験生の胸に響くような広報戦略に取り組んでいる。近畿大はこの6年間で世界に羽ばたいていく形になった。私はさらに充実させ、新しいことも加えたいと思う。

 近畿大の次のフェーズ(段階)はグローバル化の進展だと捉えている。語学力を身に付けるだけでなく、多様性を認める価値観が必要になる。近畿大は16年4月に国際学部を開設し、1学年500人全員を留学させている。学生の一部を留学されるのではなく、全員だ。思い切った取り組みであり、この点が大阪らしい。

 商都大阪を代表する商人の佐治敬三氏の経営理念「やってみなはれ」と同じ考え方だ。まずやってみることから物事は始まるのであり、学生が志の高い間に留学させることがベストだと考える。2年後には国際学部の第1期生が卒業する。国連職員として働く人材も出るかもしれない。国際性豊かな学生を社会に送り出すことが学長としての私のミッションの一つだ。

■文理融合の人材育成

 近畿大は国際学部を含めて法、経済、経営、理工、建築、薬、文芸、総合社会、農、医、生物理工、工、産業理工の合計14学部がある。それぞれを弧峰にするのではなく、山脈にすることが大切だ。文系、理系の学生がコラボレーションして共同研究する環境を整えたい。例えば、建築学部が取り組む空き家改築の研究について、生物理工学部がバリアフリー、経営学部が投資効果の観点でそれぞれコラボする。こうした文理融合によって、経営者でありながらマーケティングにも詳しい人材も育っていく。

 近畿大出身の社長数は5895人で、西日本1位、全国7位というデータがある。彼、彼女たちは中小企業でオリジナリティーを発揮するスタンスを持っている人も多い。最近はベンチャー企業に向かう学生もいる。今後は少子化によってシュリンク(縮小)した社会になる。アーカイブなどでモノづくり現場の技術を継承する仕組みを構築するなど縮小社会の問題を解決する人材の育成も大切であり、この点は近畿大の「実学教育」にフィットしている。

■発想の転換

 近畿大は志願者数日本一になったが、その広報戦略はあくまでも大阪の発想をベースにしている。マグロのデザイン広告や「早慶近」「近大をぶっ壊す」のキャッチコピーもそうだ。全国的に高い評価を受けると、大阪色を見せないようにするものだが、近畿大はあくまでもローカル大学という発想だ。それでも学生が集まるのは本質を伝えているからだ。

 「早慶近」は英国の教育情報誌が発表した「THE世界大学ランキング」で800位以内に入った日本の私立総合大学を頭文字でくくったものであり、大学界の尺度である偏差値にとらわれない近畿大の独自性を示している。「早慶近」のくくりは厚かましい発想かもしれないが、訴えていることは真実だと考えている。

 大阪の活性化策について言えば「大阪は大都市」という発想を捨て、地方都市としての特徴を打ち出すべきではないか。首都の東京は大企業が多く、マネーもあるが、地方都市はそうではない。大阪に集積する中小企業は小回りが利く。大阪は地方都市だからこそ企業、大学、行政が連携しやすいという考え方も重要だ。その意味でも大学は門の外に出て行かなければいけないと思う。

ほそい・よしひこ 1956(昭和31)年生まれ。兵庫県西宮市出身。87年に京都大大学院農学研究科畜産学専攻博士後期課程修了。近畿大の生物理工学部長、先端技術総合研究所長、副学長を歴任。大学院教育改革推進プログラムのグループ代表も務めた。2018年4月1日に学長に就任。近畿大短期大学学長を兼ねる。生殖生理学の専門家。

〈近畿大の概要〉
 1925年創立の大阪専門学校と、43年創立の大阪理工科大を母体に49年設立された。初代総長は世耕弘一氏。卒業生は50万人を超え、日本有数の規模を誇る総合大学。2018年度一般入試の志願者数の延べ人数は15万6225人(短大除く)で、過去最高を記録。東大阪市のほか、奈良県や広島県、福岡県など六つのキャンパスを持つ。大学の学生数は計3万3125人(17年5月現在)。


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